【ショートショート】まだマシな側

西ノ森リーフ

まだマシな側

七十を過ぎると、仕事はほとんど残っていなかった。

足を痛めて外に出られない彼に紹介されたのは自宅でできる簡単な仕事だった。

高齢化と独居の増加により、すべての家には見守り用のAIカメラが設置されている。

彼の仕事は画面に映る「ひとり暮らしの老人」を監視し、異常があれば報告することだった。

毎日モニター越しに老人たちを眺めた。

動かない背中、無言の部屋。

「しんきくさい連中だな」

「俺はまだ働いてるだけマシだ」

そう独り言を言いながらコーヒーを飲んだ。

ある日、ひとつの画面が気になった。

老人はパソコンの前に座ったまま何時間も動かない。

「こいつ生きてるのか死んでるのかわかんねえな」

彼は鼻で笑った。

画面の端に表示されている利用者情報を何気なくクリックする。

そこに映っていた名前と年齢と住所はすべて自分のものだった。

カメラの向こうで動かない老人がこちらを見ていた。

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