メンズアイドルと広報女子が駆け抜けた解散までの400日

@nanaishihara

第1話:メンズアイドルの広報になった日

はじまりは、知り合いにメンズアイドルグループのプロデューサーを紹介してもらったあの日だった。


わたしは企業の広報部に所属し、会社の実績を世の中に広めたり、世間から会社がより良く見られるにはどうしたらいいのかを考える仕事をしている。


そのなかで、もう少し自分の経験を増やしたいという理由から、パラレルワーク——いわゆる副業をしていて、自分たちの広報に困っている会社を手伝ったりしている。


そして、この日に紹介されたのは、わたしの元上司の学生時代の後輩で、「PRIZMIC(プリズミック)」というメンズアイドルのプロデューサーをしている人だった。


自己紹介もそこそこに、彼——加藤さんはそのグループの説明をしてくれた。


6人組のメンズアイドルグループで、メジャーデビューを目指していること。

それなりにファンもいて、お金も使ってくれているが、そこから先が伸び悩んでいること。

メンバーも関係者も全員男性で、いわゆる女性心が分からず困っていること。


そんな話を飲み会で先輩にたまたましたところ、「二人を引き合わせたらなにか生まれる気がする!」とこの場が設けられたそうだ。


……なるほど。


わたしは、元々バンドの追っかけをしたり、漫画が大好きでグッズを集めたりしていたので、いまでいう推し活というものには理解も知識もある方だと思う。


そして、それをよく知っている元上司がわたしに声をかけてくれた理由も分かる。


ただ、まわりがアイドルグループやイケメン俳優に熱狂していた時代に、わたしはバンドTシャツを着て、ライブで頭を振ることに人生を賭けていたので、いわゆる正統派イケメンや、キラキラアイドルなどはかなり疎い。


人気のグループであっても、人や曲もほとんど分からない。


なので、その文脈においては自分はそんなに強くないかもしれませんと……前置きしたうえで、わたしは取り留めもなく話しはじめた。


「女子って、推しに見せる顔と、ファン同士で見せる顔って違いますよね。推しの前では優しくてかわいくいたいから、にこにこ全肯定してるけど、裏ではファン同士で推しのダメなところを言い合ったりして」

「わたしは昔、自分の推しが広まってほしくなくて、友だちに布教したことがなかったです。売れなくてもいいから、ずっと手の届く場所にいてほしかった」


そんな話をある程度したあと、興味深そうに聞いてくれていたプロデューサーから「彼らを売るのを、手伝ってもらえませんか」と言われた。


正直、なにが刺さったのか、なにが良かったのかは分からない。それに、どんなグループなのかも、どんな人たちなのかも、まだなにも知らなかった。


ただ、元上司の紹介でもあるし、もし自分の経験で誰かが喜んでくれるならうれしいし、なにより、会社や事業、商品の経験はいくらでもあるが、タレントの広報というのは経験がなかったので、深く考えないまま、わたしは「ぜひ!」と答えた。

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