小説家殺人鬼

春野訪花

小説家殺人鬼

 幼い頃から作家に憧れていた。

 鳴かず飛ばずの日々の中、何が悪いのかと考えた。そして、気づいた。


 知らないことは書けないのだ。


 今、高いところから人を突き落とそうとする犯人視点を書こうとしている。その時の描写として、知らないことがある。

 高いところから人を落とした時、その人は「弾む」のだろうか。

 人間にはボールのような弾力はないものの、高いところから地面に叩きつけられれば、ある程度跳ねるのではないか。


 実験してみた。


 跳ねた。

 あらゆる関節を捻じ曲げながら、数十センチ浮上し、再び地面に落ちた。動かなかった。血の海が広がっていった。

 近寄ってみれば、巻き上がった土のにおいと血のにおい、それと吐き気を催すような脳漿のうしょうや油のにおいが混じっていた。

 その経験を元に、小説を書いた。

 ……売れなかった。

 次の小説は、人が轢き殺される瞬間を描きたいと思った。


 実験してみた。


 車の中でも全身に伝わる、衝撃。フロントガラスを乗り上げたその人は、車体の上まで転がり、斜め後ろへと落ちていった。

 車を止め、振り返る。

 血の海の中、その人はぴくりとも動かない。手足があり得ない方向に曲がっている。

 その経験を元に、小説を書いた。

 ……売れなかった。


 次は、人を刺す瞬間を書こうと思う――。



「……聞いたか? 小説殺人鬼の話」

「聞いたとも。なんであんなのが売れるかね」

「累計十万部だと」

「売れるために殺人をして売れず、そのことを書いた自伝が売れるとは……」

「牢屋ん中で喜んでるってよ。昔の同期から聞いた」

「はぁ…………クソだな」

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小説家殺人鬼 春野訪花 @harunohouka

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