第三九話 勇気と優しさ
☆正午五〇分 京都・滋賀県境 山岳地帯
紫電が唸り、轟音と共に周りの木々に次々と火が付いていく。煙が目を殴り、灰が頬を舐め回す中、僕達は必死に走り続けていた。
「先輩、もっと早く運転出来ないんですか!!」
「コイツ元々中古なんだよ!! ガッタガタで安いから買ったんだから文句言うな星野!!」
直後、僕達の頭上を紫電が駆け巡る。聴覚と視覚に激痛が走り、僕は思わず苦悶の声を上げた。
「伏せろ!!」
麻痺した感覚の中、朧気ながら確かに聞こえた望さんの声。反射的に伏せれば、凄まじい衝撃と高温が僕達を背後から殴り付けた。直後、甲高い大きな音と共に世界が揺れ、恐ろしい衝突音が骨から伝って響き渡る。何が何だか分からないまま、地と空が何度も何度も逆転した。
僕は望さん辺りに庇われたのだろう。漸く視界が戻った時、全員道路に投げ出されていた。見渡せば、燃え盛る木に火炙りにされる流星号の末路が充血した目に入る。
だが、意外な事に先輩は悲鳴を上げなかった。正確に言うと、先輩というよりかは僕達全員だったし、悲鳴を上げないというよりは、『上げられなかった』のだろう。
坂道を転がる拡声器が巨大な前足に踏み潰され、ノイズ混じりの鳴き真似がプツリと途絶える。残ったのは、木々の燃え盛る音と迸る雷鳴、そして、迫りくる怪獣の唸り声だけだった。
「すまなかった。おれのせいで、こんな目に合わせてしまって……!!」
望さんの声は辛そうだった。そして、酷く悔しそうだった。
「あんた、今までいい夫って思ってたけど、意外とそうでもなさそうね。まぁ、そんなあんたを見捨てられないうちもうちか……」
愚痴を溢しながらも、桜さんの傷付いた腕は夫をしっかり庇っている。そこには、確かな絆が存在していた。
「か、神様!! お、俺、良い事したよな!? 凄く良い事したよな!? せめて、天国でVIP待遇付けろよ!? あ、あと、とーちゃんとかーちゃんにゴメンって……!!」
鼻水を垂らし、号泣しながら震える先輩。血だらけの手は、天に向かって最後の祈りを捧げている。ガチガチという歯の音を、遺言代わりに打ち鳴らしていた。
あぁ、僕は死ぬのか。今までアドレナリンで誤魔化していた恐怖心が、瞬く間に全身を包み込んでいく。早鐘のように鳴る心臓に、乱れていく呼吸。耐えられなかった。生きたかった。何より、後悔していた。
あの時、僕は何故見捨てられなかったんだ。そして、それでも何故僕は望さん達を恨めないんだ。
バチバチという死刑宣告が響き、紫の光が辺りを照らす中、僕はその答えを『勇気』と『優しさ』に求めた。そして、その二つを酷く僕は恨んだ……
直後、雷鳴が耳を劈く。
……僕達は、死ななかった。
突然、重厚な地響きと共に咆哮が大気を揺るがす。僕達を消し炭にする筈だった紫電は、背後から感じたであろう『敵意』に向けられた。空を焦がしながら迸る紫電。だが、それは分厚い鋼の装甲と、強靭な筋肉の壁の前に跳ね返された。跳弾ならぬ『跳雷』が、乱入者の足元で弾ける。
背中のスラスターが煙を噴き上げ、足元が燃え盛る。僕達は、思わず口を開き、全員で同じモノを指差した。
「「「「ゼージスだ!!」」」」
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