第三六話 走れ!!

 ☆正午半 下京区 オープンカー車上


 ボルメラーの鳴き声が拡声器から響き渡る。走り続ける車に揺られ、おれは飛び交っていた戦闘機達を凝視していた。


 『徴収』される者、されない者。無条件なように見えた一撃必殺は、決して無敵ではない。恐らく、送電網のような『ストロー』が無ければ範囲には大幅な制限がかかるのだろう。その証拠に、一定距離以上の戦闘機に対しては、わざわざ放電して攻撃しているのだから。


「五〇〇、奴の射程は五〇〇メートルだ!! もう少し飛ばしてくれ!!」


 その言葉に、佐藤は涙していた。愛車のアクセルをベタ踏みし、震える手でハンドルを回し続けている。


「なんで、ナンデ、何でぇぇぇー!?」


 鼻水だらけの顔で叫ぶその横で、星野はスマホの地図を涙目で睨み付けていた。


「次の分かれ道は真っ直ぐ進んで!! あと先輩、そんなに嫌がるなら何で断らなかったんですか!?」

「そ、それは決まって……!!」


 直後、佐藤の言葉を遮るように砲声が響き渡る。医療テントからパクったもとい、拝借したバズーカが空中に弧を描く。果たして、戦闘機を撃ち落とそうとした背鰭の一つは爆音と共に崩れ去る。まるで本来の持ち主とでも言わんばかりの慣れた様子で、桜は照準を覗いていた。


「同意見よ!! 二人で自衛隊辞めたのに、どうしてまた武器を取らねばならないの!? 」

「なら、おれ一人で行かせれば良かったじゃないか!!」


 ますます激昂し、咆哮する怪獣。黒の結晶が紫電を迸らせ、バチバチと大気が焦げる音がおれ達に死の宣告を告げた。


「そこで曲がるんだッッッ!!」


 おれが叫ぶと同時に、遠心力と共にカーブ。直後、背後の建物を紫電が吹き飛ばし、吹っ飛んだ塵や破片がおれ達を降り注ぐ。哀れ、バックミラーは音を立てて割れてしまった。


「あぁッ、俺の流星号がっ!!」

「「「今は走って!!」」」


 風を切り逃げる流星号に、結晶の巨体は追いすがる。


「あぁ、こんな事になるならさっさと逃げるんだった……!!」


 逃亡劇の中、星野がベソをかきはじめる。もはや世間体も無く赤子のように泣く様に、ギリギリ正気を保っていた佐藤もまた決壊した。


「畜生、『みんなの為におれは死ぬ』とか言われたらこうするしかないだろ!! オッサンを見捨てて逃げたら、俺達がクズみてぇじゃねえか!! あと、言い出しっぺは星野だろ!!」

「あんなモン見せられて、逃げるなんて言えませんよ!!」

「黙って、アタシ集中できないってば!!」

 

 おれ達は、怪獣を引き連れ走り続ける。




 

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