第三四話 おれが行く
☆正午十五分 降川高校 臨時避難病院
「早く車出して!!」
「誰か車貸してくれる人いませんかー!!」
「畜生、数が多すぎる!!」
阿鼻叫喚の医療テント。看護師や医者、そしておれ達は担架と共に走り回っていた。未だ癒えぬ傷の痛みに呻く患者達を乗せ、脂汗と共に息を切らす。だが、いくら努力しようと、どれだけ協力を求めても間に合いそうにはない。
「あとどれくらい残ってる!?」
車に患者を乗せるおれに、軍医の姉ちゃんは手伝いながら怒鳴り返した。
「百人はいます、とてもじゃないけど間に合いませんよ望さん!!」
軍医の姉ちゃんがテントに去った直後、上空でまた戦闘機が弾けた。解き放たれた電撃を吸収しながら、怪獣は進撃を続ける。噴き出した灼熱の蒸気は街中を覆い、逃げ遅れた人々を次々と飲み込む。生きたまま蒸し焼きにされ、耳を塞ぎたくなるような断末魔が京都中に響き渡った。
だが、これだけの惨事が広がっても尚ワンダは、直接的な攻撃する事はない。恥ずべき事に、おれ達はその理由を『理解してしまっている』。メルトダウンでも起こしているかのように雷と煙と共に溶けていく結晶の背鰭は、今にも京都の街を吹き飛ばさんと連続した閃光を滾らせていた。
(ゼージスさえいれば)
何故か、おれはそんな事を思ってしまった。あの圧倒的な力を目の当たりにして、頭が狂ってしまったのだろうか。具体的な方法なんて分からない。だが、ゼージスなら何とかしてくれる。何処かそう叫んでいる自分は、間違いなく存在した。
(本当は、誰も悪くはないんだ)
あの日以来、クソみたいな綺麗事が何度も何度も脳裏で叫んでいる。邪魔だ。ふざけているのか。何度も何度もそう怒鳴り返しても、その声が鎮まる事はない。
結局、おれも信じたかったのかもしれない。ワンダが、おれ達に平和を取り戻してくれる事を。
「あっ、いました!!」
不意の声に振り返れば、妻と星野コンビの姿。荷物を背負った三人は、焦燥とした様子でおれと迫りくる怪獣を見比べていた。
「あんた、早く逃げるよ!! 早くしないと、うち等まで蒸し焼きにされちまう!!」
「あとはワンダに任せて逃げましょう!!」
おれは、その言葉に心から頷きたかった。
「そうは問屋が卸せねぇんだ!!」
おれは、三人を連れてテントに戻る。
「やだ、やだよお母さん!! 離して、離してよぉー!!」
「いい加減にして!! このままだとあなたまで……!!」
「嫌だ、やだぁぁー!!」
目の前で泣き叫ぶ少年。病床に横たわる母に縋り付き、必死に引き剥がそうとする軍医の姉ちゃんに駄々を捏ねていた。
理想と現実は食い違う。爆発寸前の怪獣に、ワンダはどうする事も出来ない。そして、その無力さが誰かに悲鳴をあげさせている。
……おれは、ただ逃げるのか?
人任せにするのか?
おれは、娘を守れなかったあんな奴らと同じになるのか?
プツリ。
苦悩の果てに、何かが切れた音がした。瞬間、おれの意識は一瞬暗転した。
「あんた……?」
気付けば、おれは恨む対象を変えていた。いや、正確には『優先順位を変えていた』。
「誰かこの中に、ガソリン車を持ってる奴はいるか?」
やっと説得に応じたと思ったのだろう。勢いよく手を挙げたのは佐藤だった。
「俺の奴があります!! 乗せますからさっさと……!!」
「ありがとう」
おれは、続けて軍医の姉ちゃんに言った。
「頼みがある。呼びかけ用の拡声器を貸してくれないか?」
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