第二二話 光なき古都
☆午後一時半
サワさんの表情は険しい。いつものへそ出しタンクトップとは違った、キッチリとした黒スーツ。一九三センチの長身と豊満なバストが締め付けられ、着心地が悪いのだろう。
……それに。
澱んだ空気に、薄暗い食堂。
果たして、これで一泊五万だなんて、誰が信じられようか。
「不思議なものだ。各地の変電所やら送電所で一斉にショートが起こったらしい。点検も繰り返し行っていたはずだがね」
『秘書』なのだろうか。俺とサワさん、そして目の前の壮年のグラスに、美女達がワインを注ぐ。今のご時世、いや、それどころか今までの人生で一度も見た事もないような鮮やかなワインレッドは、まるで安酒のように男の喉に消えた。
「で、調査を願いたいと?」
社長はコクリと頷く。
「これ以上停電が続くと、我が社は干やがってしまう」
何処か無神経な言葉に、真横で揺らいだ殺気。俺はさりげなく制する。幸い、暦の剣呑な視線に或人は気付かなかった。
「うちは電気屋じゃないですよ。……って、言いたい所ですけど」
懐からタブレットを取り出す。
「ロズベオンは、強力なエネルギー源を狙う習性があります。現に六六年の丸の内や八九年の芦ノ湖に現れた個体は、いずれも発電所を狙ってました」
繊細で美しい指が画面をなぞる。
「今回の個体は、何故か最寄りの逆に侵攻したんです。多分、停電と無関係ではないでしょうね」
社長は満足気に微笑んだ。
「ありがとう。君は我が社の救世主だよ」
ズレた言葉に、俺は何とも言えぬ感情を覚えた。
☆午後二時半 客室
俺達を前に、恥じらいの「は」もなくサワさんはスーツを脱ぎ捨てる。白のブラとパンティーのまま長身を伸ばし、たわわと揺れるIカップのホックに手を伸ばす。
いつものタンクトップとショートパンツに着替え、白衣を羽織る彼女の姿は何処か不機嫌だった。
「なんか、腹立つわあいつ」
「助けるの?」
着替え終わった暦は、Tシャツの上から自分の胸に手を当て、不思議そうにサワさんのモノと見比べる。
「見える部分では悪い事してないし」
直球の皮肉と共にケースを力任せに閉じる。
「竜君はどうする? まぁ、聞くまでもないけど」
俺の脳裏には、列車から見えた景色が浮かんでいた。
「俺が、非番でサボる訳には行きませんよ」
呆れたように口を開きかけ、結局口を紡ぐ。
「……無理しないで」
サワさんが去り、客室に残された俺達。俺もまた、やるべき事の為身支度する。
「竜」
不意に暦が口を開く。
「竜も、助けるの?」
何処から持って来たのか、その手には朝刊が握られていた。
〈パリ怪獣事件 ワンダの対応の遅れに苦言相次ぐ〉
〈収まらぬ陰謀論 怪獣災害時のデマと差別〉
〈福岡で強盗 背景には"怪獣貧困"?〉
「正しい事をして、なんで責められるの? なんで、あんな人達を守るの?」
直球で、容赦の無い淡々とした言葉に、返事に迷う。だが、何も返さない訳にもいかなかった。
「人間、それだけじゃないよ」
咄嗟に出たのは、自分でも意味が分からない出任せだった。
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