第六話 東京消滅
☆午前七時四五分 港区芝浦
呆然が、東京中を支配していた。受け入れ難い真実に、手も、瞼も、そして、口さえも動かなかった。巨人はただ歌い続ける。何処までも黒い闇を湛えた孔が、俺達を無視してボルメラーを見つめていた。
突然、閃光が迸る。体中の孔から凄まじいエネルギーが溢れ、やがて突き出した右掌へと収束。街を照らしながら歌声は悲鳴のような不協和音へと変貌していく。
怯え、後退りするボルメラー。奴が何者か、何を目的にしているのか。知る者は今もいない。だが、戦場に立つ全ての者の脳裏には共通した結論が浮かび上がっていた。
「逃げろ!!」
瞬間、世界は『白』に包まれた。視覚と聴覚に激痛が走り、俺は操縦桿を押し倒しながら気を失った。
機器類が火花を上げ、機体が激しく揺れる中、特異点は天へと弾け、無数の眩い矢となり降り注ぐ。一本一本が幾つものビルを蒸発させながら大地を穿ち、轟音と共にマグマが天高く噴き上がる。
銀座、千代田、品川。破滅は都心全域に平等に降り注いだ。黒煙の中、全てを飲み込み、焼き尽くし、溶かす一瞬の死。
目覚めた時、モニターいっぱいに広がっていたのは地獄そのものだった。
力無く崩れるボルメラー。背負いし火山は崩壊し、ドス黒いマグマが白いマグマの大洋へと流れ落ちる。巨人は何事も無かったかのように歌い続ける。ゆっくりとさらに上へと浮かび上がり、無機質に眺めていた。
……その右掌に、光の特異点を眩かせて。
「上だ!! もっと上へ、宇宙まで逃げろ!!」
額から血を流しながら司令は叫ぶ。我に返り、機器類に向き合うオペレーター達。
「機体の加圧及び密閉を確認!!」
「エンジン最大出力!!」
「報告、大気圏突破準備完了しました!!」
「翔べ、今すぐ翔ぶんだ!!」
警報の中、俺は操縦桿を最期の力を振り絞り押し倒す。
瞬間、エンジンが異音と共に爆炎を吐き出す。凄まじい重力が体を押し潰し、俺達は苦悶の声を漏らした。轟音と共に炎を纏い天を貫くロックホーク。巨人は追わない。去りゆく俺達に少し視線を送り、再びボルメラーに向き合う。
数分の時間を掛け、光はその勢いを増していく。絶望の中、ボルメラーが見たのは空を覆う第二の太陽。第一射とは比べ物にならぬ嵐が吹き荒れ、街が鈍く震える。
次の瞬間、不協和音と共に太陽は堕ちた。ボルメラーを飲み込み、大地へ沈み込む。地球は激しく震動し、海は荒れ、雲が消える。ありとあらゆる都市が轟音と共に崩壊し、凄まじい暴風が世界中に吹き荒れた。突如として訪れた終焉。
破壊と混沌の中、世界ははるか東の空から漏れる破滅の光を見た─
砂嵐混じりのモニターに、星々が輝く。司令室には、呻き声が響き渡っていた。
〈応答せよ、応答せよ!!〉
酷く焦燥した通信だった。無重力の中、俺は全身の痛みに耐えながら応えた。
〈何事だ、東京で何が起こった?!〉
「……消滅です」
曖昧で、答えにもならない言葉だった。だが、こうとしか表現出来なかった。
〈具体的な報告を求める、壊滅とはどういうことだ!?〉
違う。壊滅なんて生易しいものじゃない。理解し難いのはこっちの方だ。混乱の中、口が中々開かない。
〈繰り返す、東京で何が起こった!?〉
息を整え、ようやく俺は答えた。
「壊滅じゃありません。消滅です」
眼下には、かつて東京と呼ばれた煮え滾る大穴が口を開いていた……
プロローグ 完
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