気象予報の真実

SB亭moya

気象予報の真実

「お電話ありがとうございます。こちら気象庁、お客さま対応窓口です」


「なんだい。ここ数日の天気予報は?」


 ……


「もしもし?」


「……ああ、ごめんなさい。ちょっと現実逃避してました」


「なんだそりゃ!? なんだそりゃ!?

 現実逃避したいのはこっちの方だ」


「ええ。お怒りの気持ちはごもっともですが、一つ落ち着いて、理性的な話ができればと思うのですが」


「いいですよ。じゃあ理性的な話をしますがね。なんだい。ここ数日の天気予報は」


「大変申し訳ございません」


「ちょっとちょっと。謝る前にさ、聞いてほしいわけさ。私だってこんな事で怒りたくないんだよ本当は。

 初めてだよ。気象庁なんかに電話するのも。でも流石にここ数日の発表はさ。流石にじゃない?」


「大変申し訳ございません」


「先週ですよ。気象庁からの発表で『十年に一度の大雨が降るでしょう』

 うちの息子が運動会が中止になるからって大喜びでさあ。

 当日、雲ひとつない青空。あの息子の絶望した顔をあんたらに見せてやりたいよほんと」


「大変申し訳ございません」


「四日前ですよ。気象庁からの発表で『気温も上がり、夏を思わせる陽気となるでしょう』じゃあ、明日は息子を連れて動物園にでもいくかい?

 当日大雨。うちの息子に恨みか何かあるのかい」


「大変申し訳ございません」


「で、二日前ですよ。また『十年に一度の大雨が降るでしょう』……あんた舌の根も乾かぬうちにって言葉知ってて『十年に一度』なんて文言使ってんのかい。

 そして当日晴れ!! どうなってんだい! オタクんとこの『十年に一度』は! 『十年に一度の大雨』はいつ降るんだい!!」


「大変申し訳ございません」


「おい!?」


「大変申し訳ございません」


 …… ……


「大変申し訳ございま……あ、そちらのターン終わりました?」


「『大変申し訳ございません』だけで乗り切ろうとするんじゃないよ!! 真面目に聞きなさいよ!」


「大変申し訳ございません。

 いや、天気予報の技術も向上はしているのですが、なかなか100%当てるというのは難しいことでございまして……」



「そうそれ。それが聞きたかったんだよ。どういう予想の仕方してるんだい」


「はい?」


「どういう予想の仕方したらああいう発表ができるんだ!? って聞いてるんですよ」


「ああいう発表と申しますのは……」


「……明日の予報ですよ。『七十年に一度の曇りのち晴れところにより一時雨でしょう』どういうこと!?」


「ああ……そのことでしたかあ……」


「そのことでしたかじゃないよ!? まず、どれなんだ!? という話だよ。

 いや、『曇りのち晴れところにより一時雨』でも怒るよ私は。どれだい!? となるだろう普通。でもわざわざクレームの電話を入れるまでのことじゃない。

 なんでそれにも『七十年に一度の』なんてつけちゃうんだ? と聞いてるんだよ」


「しかし……明日の発表は、発表したとおりでございまして。ええ」


「そんなわけがないだろう!? 果たしてそれはおかしいだろう!? 

 なんだ『七十年に一度の曇りのち晴れところにより一時雨』って。聞いたことあるかあんたそんな天気」


「ええ。まず曇り。こちらは大気の影響で雲が空を覆っている状態のことにございます。そして晴れ。こちらはですね、大気中に雲が少ない、または全くなく、青い空が見えている状態のことにございます。そして雨というのは……」


「落語を聞きに来たんじゃないんだよあたしゃ。それも立川流の。あんたふざけてるのかい!?」


「なんです!?」


「あんたふざけてるのかい!?」


「かっちーん。流石に今の発言はカミナリ様ですよ?」


「怒ったってかい。怒るのは筋違いだろう!? あんたらが適当な発表をしたんだから」


「適当な発表なんかしてませんからね!? あなた近代の気象予測はどのように行われているかご存知ですか!?」


「知らねえよそんなの! こっちが聞きてえよ! どうやったら『七十年に一度の曇りのち晴れところにより一時雨』なんて予報が出せるんだよ!」


「話を混ぜ返さないで! ……熱帯低気圧じゃないんだから。まず質問に答えなさい。どうやって我々は気象予報をしてるとお思いですか!?」


「だから知らねえって! あれだろ。気象衛星か何かで見てるわけだろう」


「気象衛星!! ……(鼻で笑う)」


「なんだぁ!? 何で笑われた!?」


「いつの時代のお方ですか? 気象衛星だって(鼻で笑う)じゃあ聞きますけどね。貴方がもし気象衛星だとして、少し高い所から蟻さんの巣を眺めるとしましょう。高い所から眺めていたら貴方、蟻さんが次どっちに動くか解るっていうんですか!?」


「何を聞かれてるんだ私は!? じゃあ答えてみなさいよ。最新の気象予報っていうのはどうやってるんだい。

 で、どうやったら、『七十年に一度の曇りのち晴れところにより一時雨』なんて出せるんだい!」


「お答えしましょう。まず地上の観測所、そして気象衛星のデータを集めます」


「気象衛星使ってるじゃねえか!!」


「そして、スーパーコンピューターで大気の状態を格子上に細かく分けて。さらにグローバルモデルのシステムで気象情報を当てはめまして……」


「気象衛星使ってるじゃねえかっつってんの!!」


「そして、日本各地にある気象台から靴師と呼ばれる方が靴を足で投げまして。その靴の着地した結果で気象情報を割り出すというやり方を……」


「無視すんなオイ!? 気象えいせ……おいちょっと待て。あんた今何つった?」


「だから、最新の技術を以ってしても難しいんです。気象予想は」


「話をすり替えんな! ……靴師?」


「はい」


「……多分、俺が今からいうことは間違ってると思うから、間違ってたら指摘してくれな? 靴師? が、靴を飛ばすの?」


「はい」


「……表が出たら晴れ。裏っかえったら雨。長いこと転がってたら曇りか」


「詳しいですね」


「否定してくれよ!? 嘘だろ!? 気象予測ってそんなんでやってたの!?」


「秘密ですからね」


「無理無理無理!! 今日中に家族に言うわ! てかSNSに書くわあんたとの会話!」


「何か誤解をされてるようですが、それだけじゃないですからね? ちゃんと大気や、気流の状態を鑑みた上で、靴師は靴を飛ばされているわけです。それで出た結果で、東京都杉並区の 高円寺氷川神社 の境内にある『気象神社』に祀られているお天道様に『今日は晴れってことでよろしいでしょうか』と、お伺いを立てるわけです」


「無理無理無理無理無理!! お天道様!? 無理無理無理!! そんな秘密俺一人じゃ背負い込めないもん!」


「わかっていただけましたか。気象予報の難しさが」


「むしろわかんねえよ! あんた適当なこと言ってるだろ!」


「……かっちーん。適当なこと? それは酷いですよ。怒りました。タイフーン級に怒りました」


「だったら本当の事を言えよ!」


「本当の事ですよ!! だから難しいんです! 気象予報は!! 

 ほとんど運ですよ」


「い、言い切りやがった……」


「しかも最近はお天道様に対する扱いもひどいもんだ! 雑用ばっかり押し付けおって。お天道様をなんだと思って……」


「じゃあ何か!? あんたらが靴を飛ばした結果、『七十年に一度の曇りのち晴れところにより一時雨』なのか!?」


「そうなんですよ。昨日は風が強かった。北風です。大気も冷えていた。

 そんな中……飛ばした靴が空中で真っ二つに割れたんです」


「は……はあ!?」


「で、片方は表を。片方は転がって転がって……裏を向いたんです。気象庁七十年の歴史でこんなことは初めてですよ。

 我々も発表するか迷ったほどです。しかしねえ。こんな結果が出たんじゃあ言うしかないでしょう。『曇りのち晴れところにより一時雨』と。

 間違ってますか!? 間違ってないわけですよ」


「七十年に一度の部分はなんだ」


「だって初めてなんですもん!! 気象庁始まって初めての事だから『七十年に一度』なんですよ! 嘘ついてないでしょう!?」


「あ、頭が痛くなってきた」


「偏頭痛ですか?」


「ちがわい!! あんたとの会話にだよ!!」


「なんだと!? もー怒った! 気象庁始まって丁度七十年。褒められた試しもないし、こんなに文句を言われたのは初めてだ。……あんたの真上に雨降らしてやっかんな」


「な!? ……おいちょっと!? もしもし!? もしもーし!!」





 電話は一方的に切れた。

 私は気晴らしに散歩にでも出ようと家を出たら、頭にポツリと、涙のような水滴が降ってきた。

 外は雲一つない晴天だった。



 気象予想の真実 了


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