この世界の天気の為に俺の心は利用される
桜演あくと
天気
俺の名前はソラ。このメテオ王国の勇者でありこの物語の主人公だ。今日俺は王様に城に来るよう呼び出されていた。家を出ると太陽の日差しが俺を捉えた。透き通った空。今日は気持ちが良いほどの晴れだ。
城に向かい歩き出してすぐだった。「ドンッ」という鈍い音と共に背中に痛みが走る。思わず俺は体は前のめりに倒れた。顔を上げようとすると、向かい風が吹く。すると後ろに居た俺のことを蹴ったと思われる男性が、「はぁ〜涼しい。最近暑い日ばっかで、こっちも疲れてたんだ。悪く思うなよソラ!」そう言ってその場から去っていった。
俺はこの物語の主人公。そしてこの世界では、主人公の俺の心情を表すように天気が変わる。先ほど向かい風が吹いたのは、簡単に前に進むことが出来ない俺の気持ちの表れだろう。気を取り直して俺はまた城への道を歩き出す。しかしさっきまでの透き通る青空とは違い、空は曇りがかっていた。
城に着くと王室へと通された。メテオ王は世間話もそこそこに、本題を切り出した。どうやら最近、近くの遺跡でドラゴンの目撃情報があったというのだ。この世界には魔物と呼ばれる生き物が生息している。人間と魔物は互いにとって危険な存在だ。なのでメテオ王は勇者である俺にそのドラゴンの退治を依頼した。
王様直々の依頼に自分でも気付かない内に浮かれていたのだろう。城に入る前にあった雲はキレイサパッリ無くなっていた。すると家を出る時に蹴ってきた男性とはまた別、今度は女性の拳が俺の眼前に迫っていた。避ける気は無い。今は真夏の八月、こんなにも太陽が出ているのは迷惑だと分かっている。俺は女性のパンチを受け入れた。
その後殴られた頬を押さえて、ドラゴン退治の為の準備をしに一度家へと帰った。
必要な物を準備していると、家の扉が叩かれた。「ソラ〜居る?」扉越しに聞こえるその声は聞き覚えのありすぎる物だった。扉を開けるとそこに立っていたのは、黄色の長髪で美少女、そして生まれた頃からの幼馴染のヒカリだった。ヒカリは俺の頬を見るなり心配そうに駆け寄ってきた。
「それ大丈夫?」
「うん、もう慣れちゃった」
幼馴染の前だから強がったわけじゃ無い。物心ついた時から、この世界の天気の為に俺の心は利用されていた。小さい頃は少し小突かれただけで、泣いて大雨を降らせていた。だけど最近は周りに何をされても慣れてしまって、雨が降る事は殆ど無くなっていた。
しかしヒカリは「慣れちゃったってなに!理不尽だよそんなの!」と言ってくれた。小さい頃からヒカリは優しかった。しょうが無いと言う周りの大人と違い、いつも俺のことを気遣ってくれた。最近は忙しくて会えていなかったが、ヒカリが変わっていなさそうで安心した。俺はヒカリに感謝の言葉を伝えた。
ヒカリについて俺は一つ気になることがあった。どうして俺の家に来たのか?俺が勇者として働いているのと同じで、確かヒカリは魔法使いとして働いてるはずだ。その問いに対してヒカリが答える。どうやら遺跡のドラゴンは魔法使いの間でも話題になっていた。そんな中幼馴染である俺がドラゴン退治に行くらしい、との情報が入り折角だし手伝いに行こうとなったのだと言う。
情報が入るの早すぎだろと思いつつ、魔物退治にヒカリが一緒に行ってくれるなんて考えた事も無かったが、とても心強かった。そして俺たちはドラゴン退治に向かった。
ドラゴンがいるという遺跡に向かう最中、ヒカリとの久しぶりの会話を楽しんだ。勇者と魔法使い、それぞれの職業の話。最近ハマっている料理。昔の思い出など、とにかくたくさん話した。ヒカリは俺にこんな質問もした。
「ソラって好きな人とかいるの?」
「いないかな、俺と一緒だと相手も大変そうだし」
「……ふーん、そうなんだ」
いつも俺の方を見て話してくれていたヒカリがこの会話している時だけ全く目が合わなかった。気のせいかも知れないが。
ヒカリとの時間を過ごしていたら、あっと言う間に遺跡に着いていた。また昼頃で快晴ということでかなり気温が上がっていた。「今度二人で一緒に海行かない?」なんの前触れも無いその発言に俺は少し戸惑いながらもこう返した。
「え、良いじゃん。ヒカリとなら楽しそうだし!」
「やった!じゃあ約束ね!」
そんな会話をしながら遺跡内に入ると噂通りドラゴンが居た。全身が紅色のそれを見ると、魔物は人間とは違う恐ろしい生き物だということが伝わってくる。
俺たちを見つけた瞬間、ドラゴンが火を吹いた。なんとか二人とも横に飛んでかわす。もう一発吹こうとしているドラゴンに、ヒカリが『フラッシュ』を唱えた。それによって出来た隙で俺が剣を抜いて近づく。そしてそのまま俺はドラゴンの首を切り、見事メテオ王からの依頼を完了した。
しかし俺が切ったと同時だっだ。遺跡の入り口方向から三本の矢が飛んで来た。それに俺たちは気付くことができなかった。
矢はヒカリの体を貫いた。
ヒカリの体が前のめりに倒れる。俺は何が起こったのか理解することが出来なかった。急いで矢が飛んできた方へ視線を移すと、そこには弓を持った村人らしき男が三人立っていた。「お前ら何してんだ!!!」俺が叫ぶとコイツら口々に話し出す。
「お前のせいで最近雨が降らなくて困ってるんだよ」
「俺たちの仕事は農業だ。雨が降らないと働けない」
「だから大雨を降らしてもらいに来たんだ。わりぃな」
話を聞いても意味が分からない。今までは天気の為に俺自身が何かされる事はあっても、俺の周りに危害を加える人間は居なかった。「ふざけるな!!!」俺のその言葉を聞くと奴らは、逃げるように遺跡を後にした。
追う事も考えた。だけど今はヤツらよりヒカリだ。そう思いヒカリの方へと目をやる。そんな俺の目に映ったのは、明らかに事切れているヒカリだった。体から大量の血を流し、目からは光が消えている。ヒカリが既に生きていない事は誰が見ても明らかだった。
「……ヒカリ、嘘だよな」
そう言って抱き上げたヒカリからは全く生気が感じられなかった。
「ごめんヒカリ。さぁ一緒に帰ろう……」
遺跡を出ると一面真っ白だった。だがそんな事はどうでも良い。俺は異質ともいえる真夏の雪の中ヒカリを背負い、吹雪に吹かれながら帰り道を歩き始めた。
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