追放された無能能力者の俺、 一人になると最強なので配信事故で世界にバレました
桃山ハヤト
第1話 追放
東京、夜は暗くて、明るい。
昔と違うのは、あの大型液晶の街頭ビジョンが映すものだと祖父が言っていた。
そして、俺がその画面に、画面いっぱいに映る日が来るとは思ってもいなかった。
じいちゃん、きっと天国で見てくれてるよな。
――お前はクビだ。
詰所で響いた声の主は俺の所属するパーティーのリーダーだった。
そして、その声を受けたのは俺だった。
訝しげな視線をこちらに向けるのは佐川さん。
まるで生ゴミを見る目だ。
深谷さんは俯いている。
表情がわからない。
中村さんは眼中にない、といった感じだ。
つまり、誰一人として俺をかばうことはしなかったわけだ。
――ああ、俺はやっぱり足手まといだったんだな。
無機質な部屋の中、事務員が置いたと思われる一輪挿しには名前も知らない花が挿されていた。
その花から奥へピントを移すと今月の成績がチャート式に表示されているディスプレイがある。
ダントツの最下位。
俺の順位だ。
討伐、索敵、スキル……。
つまり、無能ってわけだな。
「理由はわかるな?」
リーダーがまた声を発した。
「ああ、なんとなくね」
俺は嘯いてそう答えた。
「なんとなく、か……。そんなんだからお前はクビになるんだよ」
自分がクビになる理由をなんとなくで済ませる人格にも問題がある、そう言いたいんだろうが、もう一緒にダンジョンへ行くこともなければ会うこともない人間に対して、真摯な対応をするほど出来た性格じゃあない。
「お前、確かに能力者だよな。ライセンスは間違いなく発行されているよな」
「ああ」
「お前の能力は結局なんだったのか、一度も見たことがない」
「…………」
「そのライセンスは偽造か? ひょっとしてスパイかなんかだったのか?」
偽造、スパイ、そういった穏やかではない言葉が出て深谷さんは悪光りした目を向けた。
「そんな……それはあらぬ疑いだ。俺は断じてライセンスの偽造もしていないし、ましてやスパイなんかじゃあない」
「ふん、どうだか」
リーダーは打ち捨てるかのように背中を向けた。
「とにかく、今日でお前はクビだ。私物をまとめて、なるべく早く出ていってくれ」
もうこれ以上話すことはない、そんな態度だった。
静まり返った部屋の中で口を開いたのは佐川さんだった。
「あのさ……」
「佐川……さん……」
「いつもあたしのこと、エロい目で見てたでしょ。知ってるんだから」
は? 見てねえよ。
「特に、夜のダンジョン潜入のとき、黒いピチピチのスーツ着てたから、体のラインを舐めるように見てたでしょ」
だから見てねえよ。
「ほんと、そういう視線に女の子は敏感なんだから」
お前は44歳だろう。女の子を騙るのはやめろ。
「まあ、でも、そんなに気になるなら最後にこの中身、餞別代わりに見せてあげてもいいけど」
俺は無視してロッカーに向かった。
私物の整理をしていると後ろで佐川さんがまだ何か言っていた。
「やっぱり20代ってまだまだ男の子なのよね。自分の欲求に素直になれないっていうか」
全員が無視していた。
俺よりあの人のほうが追放されそうだったが、索敵能力で佐川さんの右に出る者はいない。
少なくともこの東京には。
だからこそリーダーは口説き落とし佐川さんをチームに引き入れた。
俺の場合は違う。
株式会社ダブルトレード。
その企業に属するダンジョン攻略部隊が俺たちだった。
この会社にはそういった部隊がいくつもあった。
中でもこの第一特殊攻略部隊は精鋭部隊として名だたる面々を集めていた。
優秀なリーダーの下、高性能なサポートメンバーが集まる、常に成績上位の部隊。
上位ダンジョンへは基本的にこの第一が向かわされることになっている。
俺はその中でも見習いのようにして頑張っていた。つもりだった。
俺は新米能力者ということもあって、成績上位のこのチームにお情けみたいに入れられた。
人事担当の人曰く、第一はクセが強すぎる、実力は申し分ないが組織としてはどうも……みたいなことはちらりと聞いた。
ただ……君は切り札になるだろう、とも言っていた。
ちなみに親会社がなんの業種で、どのような企業理念があるかなどは全く知らない。
会社員ではないのだ。
それでも、せっかく民間企業所属になれたのにな。
またボランティアみたいな能力者集団に逆戻りか。
私物をまとめていると、とりとめもなく後悔が湧き出す。
土下座でもしておけばよかった?
涙を流して懇願すべきだった?
いや、そんなことは……。
===
《やっと追放かよ》
《最後まで無能感ヤバwww》
《配信映えしないやつはいらん》
《佐川さんで抜いた》
===
「お世話になりました」
私物をまとめた俺は、すっかり破れて底が抜けそうな紙袋を抱えて扉の前で一礼した。
「……ああ、気を付けてな」
リーダーがそう言っただけで、他に声はあがらなかった。
「今日で、おしまいだ」
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