番外編:吾輩は猫である。前世は人間(中年)



猫生活最高である!!!


食って、寝て、撫でられて。

日向で丸くなっていれば一日が終わる。


前世では中年の親父だった。

家族に囲まれ、休日は囲碁を打ち、そこそこ幸せな人生だったと思う。


――だが、正直に言おう。


猫生活のほうが、圧倒的に勝っている。


囲碁が出来なくなったのは少々痛いが、

それを補って余りある幸福が、ここにはある。


……ただし、一つだけ。

いや、正確にはかなり言いたいことはある。


まず――


なぜ俺の飼い主が中年親父なんだよ!!!


俺も光輝(息子)みたいに、

可愛い女の子に「モチ〜可愛い!!チュー」とか言われて

頬擦りされたい人生(猫生)だった!!!


現実はどうだ。


髭面、強面、赤ちゃん言葉全開の中年親父に

「た〜まちゃ〜ん!!!かわゆいでちゅねぇ〜」と頬擦りされる毎日。


前世の俺と大差ない髭面に!!!



ちなみに最近知った事実だが、

前世の家族は全員、

ご近所でペットとして転生していた。


息子は白い中型犬。

妻は小さくて茶色い超小型犬。

娘は――やたら貫禄のある大型犬。


それが発覚した日を境に、

我々は定期的に集まるようになった。


名付けて――


ペット会議 in 木島家。


開催場所は近所の公園。

時間は飼い主たちが寝静まった深夜。


そして今日も、会議の日である。



抜き足、差し足、忍び足。


猫の俺にとって、家を抜け出すなど朝飯前だ。


ふはは!!!

猫に不可能はない!!!


……と、思っていたのだが。


「ニャァ……」


(しまった)


気が付いたら、塀の上にいた。


高い。


非常に高い。


「ニャー(落ち着け俺。冷静に……)」


(全然落ち着いていない)


前世の俺は高所恐怖症だった。

そしてそれは、今世でも健在だった。


普通、猫って高い所、平気なんじゃないの!?



無理無理無理無理!!!

降りられん!!!


俺は全然、平気じゃない!!!



「わふわふわぉぉおん」


(親父、何やってんだ。そんな所で)


呆れ顔(犬顔)で見上げてくるのは息子だ。


助けろ、息子。


「ニャァァ……」


(父の威厳が地に落ちるから助けてくれ)


「ったく……高い所登る癖、辞めろよ」


「ニャゴゴゴ……」


(白い毛むくじゃらで“モチ”とか名付けられたお前に言われとうない)


「そう言う親父は“タマ”だけどな」


「おい、聞こえてるぞ!!!」



「アナタ、何してるの?」


その声に、俺は下を見た。


そこにいたのは、

小さくて茶色い、超小型犬。


前世の妻だった。


「か、母さん!!!助けてくれ!!!」


「はぁ……今の私をよく見なさい」


キュルンとした瞳でキャンキャン吠える妻。


「このキュートでラブリーな小型犬に、

 そんな高所救助が出来ると思って?」


……それもそうだった。



「何してんの」


低く、冷静な声。


現れたのは、

黒光りする毛並み、鋭い眼光、立派な牙。


前世の娘――美里だった。


「パパさ、私が来なかったらどうしてたわけ?」


「……すまない」


視線が痛い。

牙が光る。


俺は猫なのに、縮こまった。



その後、俺は娘に助け下ろされ、

無事に地面へ帰還した。


だが安心したのも束の間。


俺は美里の顔の真下で、蹲っていた。


娘の口元から、

ダラリと――ヨダレ。


「パパ、危ないからここで大人しくしててね?」


……はい。


正直に言おう。

めちゃくちゃ怖い。


「そう言えば美里って、猫が超好きだったわよね?」


「飼いたくてもアレルギーで無理だったよな」


「その反動か……親父、ご愁傷さま」


「あれはあれで良いんじゃない?

 娘に好かれる父親って幸せよ〜?」


……そんな会話、耳に入るわけがない。


美里の視線が、

さっきからずっと――向いている。


俺を見るな。

そしてヨダレを垂らすな。




こうして始まった、

第3回 ペット会議 in 木島家。


「今回の議題は――」


息子が声を張り上げる。


「明後日開催される、一斉予防接種!!!」


「わぉぉおおん!!!」


母さんはキャンキャン吠え、

(内容は聞かせられない罵声)

だが一番怖いのは、真上の娘だった。


「落ち着いて」


全員、黙る。


「これは回避不可能。腹を括りましょう」


「嫌だぁぁぁ!!!

 去勢手術の検索履歴を見たんだぞ俺は!!!」


「へっ。可愛い飼い主に呼ばれたら

 尻尾振って飛びつくくせに?」


「そこ!!!ボソッと言うな!!!」



結論。


予防接種は回避不可能。


その後は、今世の雑談に移行した。


「ねぇ〜聞いて聞いて〜隣にね、超かっこいいドーベルマンがいるの〜」


「なにぃ!?父さん聞いてない!!!」


「アナタ黙って!母ちゃんにもっと詳しく!」


みんな、今世を楽しんでいる。


……少し、羨ましい。



こうして夜は更けていく。


猫生活は最高だ。

本当に最高だ。


だが――


注射だけは、別だと思う。


俺はそう思いながら、

今日も猫らしく丸くなって眠るのだった。



END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したら犬でした。たぶん前世より忙しい くじら @Chappie12-1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画