異世界転移!!魔法がレアな世界で無双したい!!
@cccccrs
第1話二つの月
宇佐和樹は焦っていた。妻の佳代から
「今日は連のお迎えをお願いね」
と連絡が来て、慌てて会社を飛び出したはずが、道中が大渋滞だ。保育所に着くのが遅れると、佳代に怒られるかもしれない。すでに連絡を入れておいたが、かれこれ40分以上、車がピクリとも動かない。ラジオからは交通情報が流れ、周りの車からも苛立ったクラクションが鳴り響いている。
「くそっ、何が起きてんだよ……」
和樹は窓を開け、前方を覗き込んだ。遠くで何人かが車から降りて、スマホを片手に話し合っている様子。どうやら事故らしいが、詳細はわからない。ふと、窓が軽くノックされた。振り返ると、ずんぐりとした体型の四十代後半くらいの男が、頭を覗き込んできた。汗ばんだ顔に、妙に興奮した表情を浮かべている。「どうしました?」
和樹が尋ねると、男はニヤリと笑った。
「いや、前の方で結構な事故があったみたいでね。もっとかかるみたいですよ」
「そうですか、わざわざありがとうございます」
男は去ろうとせず、続けた。
「いやね、ここで会ったのも何かの縁だと思って。行き詰まってしまったもの同士、話したいことがございましてね」
やけにニヤつきながら、男は言った。
「私、見てきたんですよ、事故現場! ああ、車はそこにあるでしょ、あの黒のセダン。それでね、まぁ恐ろしいのがあの事故! 最近起きてる変な事件と関係があるんじゃないかと思いましてね」
和樹もその「変な事件」は知っていた。一ヶ月前から多発している、明らかに数刻前までそこにあったものが、まるで世界から球状に鋭いカッターで切り取られたように消えてしまう怪現象。メディアがこぞって取り上げ、SNSでは陰謀論まで飛び交っている。でも、和樹自身はさほど興味がなかった。忙しい日常に、そんなオカルトめいた話に構っている暇はない。
「車がね、切り取られてたんですよ!! 球状に!!」
男の目は輝いている。まるで宝物を見つけた子供のように。
「あの……どうしてそれを僕に?」
和樹の言葉を聞くと、男は少し目を大きく見開いた。それから怪訝そうな顔をして言う。
「どうしてってまぁ、興奮してしまってね。悪かったね」
「いいえ……ああ、車が」
先程までほとんど止まっていた車列が、少しずつ進み始めた。
「へ? 意外と早かったね。付き合ってもらってありがとうね……」
男はトボトボと去っていった。少し悪いことをしてしまったかな、と和樹は思ったが、仕方ない。保育所に向かって車を走らせた。ようやく保育所に着くと、連が飛びついてきた。
「パパァだあー!!」
その一声で、渋滞の疲れが吹き飛んだ気がした。保育士に礼を言い、連を車に乗せる。連がつぶやいた。「ねぇパパ。今日はお空が綺麗だったよね」
お空? 何のことだかわからないけれど、息子は可愛かった。
「ねえパパ、今日の夜ご飯は何かな」
「なんだろうね」
確か佳代がチキンライスの作り置きをしていたはずだ。
「さあ、帰るぞお」
アクセルを踏む。家までの道はいつも通り。夕陽が沈みかけ、街灯が点き始める。連は後部座席で、今日の保育所での出来事を楽しげに話している。和樹は笑顔で相槌を打つ。普通の日常。家族の温かさ。これが幸せだよな、と心の中で思う。しかし、信号待ちで停まった瞬間――異変が起きた。最初は軽い目眩。次に、強烈な吐き気。体が浮くような感覚。視界が逆転し、内臓がひっくり返るような痛み。
「うっ……!?」
何が起きている? 車内の空気が歪む。連の声が遠く聞こえる。
「パパ、どうしたの……?」
「連……!」
叫びと共に、視界が漆黒に染まる。様々な色が火花のように飛び散る。何かがおかしい。異常だ。薄れゆく意識の中、和樹は必死に叫んだ。
「連!!!!」
――。何かの唸り声が聞こえた。これは何だったけか。そうだ、ジュラシックパークだ。あのT-レックスの鳴き声……Tレックス? まだ頭が痛い。連は? 確か車で保育所へ迎えに……そうしたら……連!! 和樹は目を覚まし、上半身を勢いよく起こした。まだ痛む頭を抱えながらあたりを見渡す。土の上に座っている。乗っていたはずの車はなく、背後には大きな岩山と雑草の生い茂る荒野に地平線。
「なんだよこれ……」
ここが日本ではない事は容易に想像できた。でも、どこだ? 事故? 誘拐? 夢か? 周囲は見渡す限り荒野。風が秋のように心地よいが、四季があるかどうかもわからない。前方50メートルほどで地面は途切れ、崖となっている。下へ降れば、どんなジャングルも目ではない、どこまでも続く森林が広がっている。木々は見たことのない形――葉が青みがかった紫で、幹がねじれたように曲がっている。遠くには、奇妙な花が光るように咲いているのが見えた。
「どこだよここ……」
連は? 近くにはいない。
「連!!」
冷や汗が背中から溢れ出す。連の姿を探すが、どれだけ周りを見渡しても広大な大地と下に広がる森林しか目には移らなかった。
「連、連!! 連!!!!」
声が枯れそうになるまで叫ぶが、まるで意味はなかった。空を見ると、もう太陽は沈みそうになっている。段々とあたりは暗くなり始めようとしていた。「連……」
涙で前も見えない。心臓の音が大きくなっていく。息子の名前を叫びながら走ることしかできなかった。もしこの森林の中に連がいるのなら、日が暮れるまでにこの崖を降りれるのか? 崖は想像以上に高く、暗闇の中生きて下れるような高さではなかった。その瞬間、けたたましい音とともに後ろから猛烈な風が吹き、体が浮きそうになる。鳴き声。いや、唸り声。「なんだ……?」
恐る恐る後ろを向く。ゴオゥゥッ!!和樹の頭上すれすれをかすめ、ものすごいスピードで夕日に向かい飛び去っていく。それは巨大な羽と口を持ち、頭に角を携えた、いわゆるドラゴンであった。20メートルは有に超える1匹の巨大なドラゴンを、小さな数匹のドラゴンが追いかける。鱗は赤銅色に輝き、翼の膜は薄く透けて血管が浮かんでいる。息を吐くたび、炎のような熱気が残る。和樹は瞬きも忘れ、呆気に取られた。ここは……何だ? 夢か? 映画のセット? でも、風の感触、土の匂い――全てが本物だ。日が暮れてゆき、ドラゴンは遠ざかる。和樹は腰を抜かし、大地に仰向けに倒れ込んだ。そして和樹は目を見開く。空には二つの月が浮かんでいたのだ。一つは地球の月のように白く、もう一つは淡く赤みがかって、少し小さいい。星々も配置が違う。馴染みのない空。馴染みのない世界。「ここは……俺の知ってる世界じゃねえ……」
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