第7話 出張を旅行と言い張るのは無理がある①

「今夜も始まりました王都ギルド放送室〜」


 時間になりメリアの方を向くと頷かれたので、とりあえず魔道具を起動してタイトルコール。


 もう寝ててもタイトルコールできるんじゃないだろうか、ここまで来たら。


 相も変わらずゆるりとぬるっと始まる放送。

 今日の司会はどうやら俺らしい。別に交互にするとかは決めていないが、その場のノリ……というかメリアが「お前やれよ」と言わんばかりの目で見つめてくるのだ。


「いぇーい!」


 ぱちぱちと拍手を鳴らすメリア。

 相方に場回しを任せてのんびりやる放送は楽しいか?そりゃ楽しいだろうな!俺がいつもそうだから!


「えー、夜はまだまだ冷えますがどうですか、受付嬢さん」


 そんな恨み言は表に出さないよう、オープニングトーク。

 古今東西、困った時は天気の話題って決まってんだ。全会話デッキに三積みの汎用カードなんだから。


 この手の話にも慣れたものだ。

 放送を始めた当初は、何かネタがないかと仕事中も気を張っていたが、最近はもう無さすぎてどうでもいい話を垂れ流している。

 ギルマスに怒られていないから、多分セーフなんだろう。


「確かに寒いわね……でもそういう日は酒よ酒!」


 なんて原始的な解決方法。

 せっかくの放送なんだからお役立ち情報的なのはないのか。


「もっとこう、火属性魔法を上手く使って体温を調整するとかないのか」


「ないわね!魔力を使うくらいならお酒飲んだ方が早いじゃない。気持ちよくなれるし」


 確かに魔法を使えば疲れるんだが。


「元も子もない……」


「じゃあギルド職員さんは何かオススメの寒さ対策あるの?」


 少し考える。

 昔ギルドの仕事で雪山に行った時、どうしてたっけな……。火を起こしたり厚着するのはもちろん。


「あぁ、辛いものを食べるとか?」


「私のと大して変わらないじゃない!原始的!」


「おい脳筋と一緒にするなよ、こっちは酔わないからクエスト中でも使えるんだぞ、実用的実用的!」


 むぅ、と口を結ぶメリア。

 いつも思うが、コロコロと変わる表情を見ることのできないリスナーは可哀想だ。

 まぁこれは相方の特権ということで。


「実用的ねぇ……もっと好きな人と身体を寄せ合うとか気の利いた答えを言えないわけ?」


 この恋愛脳が。

 恋人の「こ」の字もないギルド職員がそんなことを言い出した日には、ドラゴンが押し寄せて火の玉ブレスを吐かれるぞ。


「生憎好きな人もいなくてだな、恋人なんてできる気がしないんだわ」


「ふ、ふーん!いないんだ…………」


 なんだその間は。怖い怖い。


「まぁいいでしょう。この話はやめやめ、自爆しそうだし」


 パンッと手を鳴らして、彼女は息を吐く。

 なんだかごにょごにょ言いながら強制的に終わらせやがった。


 この手の話題にはいつも食いつくのに意外だな……さては弱みか?弱みなのか?

 ガツガツ掘り下げていきたい気持ちが膨らんでいく。


 何でも要領よくこなす同僚の弱みなんていくらでも握りたいものだ。金の延べ棒と同じくらい。


「おい、何勝手に終わらせてんだ」


「いいじゃない、ほら時間も時間だしさっさとお便り読むわよ!」


 手をワタワタさせながら焦ったように進めるメリア。

 ここで無理やり話を蒸し返せばおもしろいが……相方の機嫌を損ねるのもよくないか。


 なんだかんだ俺は優しいんだ、なんて誰に向けてかわからないアピールを頭の中で組み立てながら、目の前の紙を捲った。



「『王都ギルドのお二方、こんばんは。』こんばんは〜」


「こんばんは!最近はお便りで挨拶してくれる人が増えてきて嬉しい限りね」


 本当にそう。

 挨拶を書いてくれると、送り主と目の前で話しているような気になるのだ。

 俺たちからは顔も見えないし声も聞こえないけれど、確かにこのお便りの向こう側には、人がいると感じられる。


 知らない人の心の中を見せてもらえる、それがこの放送をやる醍醐味と言っても過言ではない。


「『いつも深夜まで放送、お疲れ様です。毎回楽しく拝聴しています。』わざわざご丁寧にありがとうございます」


「『私は王都の隅っこに住んでいる主婦です。こんなどうしようもないお悩みを送ってしまい恐縮ですが、最近魚介類の値段が上がってる気がします。他の地域でもそうなのでしょうか……?』」


 なんでもないお便り……に見えてしまったら、ギルド職員として失格だ。

 さて、手元の紙から読み取れる情報は沢山ある。さらに答えにも気をつけなければならない。

 ……一旦メリアと意見のすり合わせをしたい。


 視線を上げると彼女も同じ考えなのかこくりと頷いた。


「さてさて!お便りありがとうございます〜!ちょーっと調べてくるわね!みんな忘れてるかもしれないけど、これ公共放送だから適当なこと言えないのよね」


「そうそう、俺らの発言ひとつで明日から冒険者ギルドに大群が押し寄せて石とか投げられるかもしれないからな」


「……流石にそこまではないと思うけど……ないよね?」


「わからんぞ!次回の放送は無しになるかもしれん」


「ひええ〜」


 おどけた声を出しながらも、現実世界のメリアはガリガリと紙にペンを走らせている。


 しかし物価の変動については、下手すると本当に放送中止とかありうるぞ。

 貴族が裏で動いてるかもしれないし、この放送を聞いて焦った人たちが買い占めだしたら、更に供給量が少なくなって値段が上がる。


 この放送は正しい情報を素早く伝えるためにあるのだ。

 おかしな扇動を起こしたいわけではない。


「ま、というわけでちょっと資料取ってくるからお待ちください!」


 言うが早いか、俺は手元のボタンを押した。

 これで無限CMループが入る。協賛してくれてる商会や貴族たちの情報が流れるんだ、ほっくほくだろう。


 メリアと話そうと口を開いた瞬間、ドアから紙の束が投げ入れられる。

 拾い上げた紙のタイトルは「沿岸部の漁獲量及び流通量」。こんなぴったりの資料、一体どこから……。


 閉まりかけたドアを開けると、流し目でウインクする副ギルドマスター。

 くぅ、やっぱり俺たちの副ギルマスだぜ!ムサいだけのギルドマスターとは格が違うな!


 なんてうちのトップを心の中で煽りながら副ギルマスに心からの感謝を込めて一礼すると、俺はメリアの元へと戻った。






















◎◎◎

こんにちは、七転です。

昨夜は雪が降ったらしいですが、うちの近所は全くでした。

残念!

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王都ギルド放送室〜一般ギルド職員と看板受付嬢が、あなたのお悩みに答えます〜 七転 @nana_ten

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