未来への可能性

@watashinohanashiwokiite

全てはここから始まった・・・

大学3年の春。

学内のビジネスコンテストの最終プレゼンを終えた瞬間、富沢悠馬の心臓はまだ激しく鳴っていた。

「これが俺の、全部だ」

声が震えていたが、もうどうでもよかった。


結果発表。

審査員の一人――投資家の重鎮・宗形圭一がマイクを取る。

「優勝は……富沢悠馬くん。君のアイデアは全世界、地球...いや宇宙までも変えるはずだ。未来への可能性を感じました」


ざわめく会場。

壇上でトロフィーを受け取ると、宗形が小さく微笑み、耳元で囁いた。

「君の発表、心に響いたよ。」


その言葉の意味を、悠馬は“最高の褒め言葉”だと信じて疑わなかった。

――あのときは







卒業して1年。悠馬は起業家を名乗っていたが、現実は厳しかった。

提案は通らず、報酬も不安定。地味に就活して企業に就職した同級生がSNSで同期会や海外出張を報告するたびに、心がざらついた。

シェアオフィスを借りていたが、こんなところで平日の昼間いる人間なんて、もうすでに誰かが開発しているアプリに毛の生えたようなアイデアを世に出したいと思っている女やさっきもお前の私物広げすぎと文句言ってきた40代のジジイみたいにいまだずっと可能性のない夢を追ってる奴ばかりだが、自分は違う。ああはならない。自分は人に使われる仕事なんてごめんだ!でも、うまく行かない。。。


「……あの“未来への可能性”って、なんだったんだ」


夕食の席で母が静かに言った。

「悠馬、お願いだから就職を考えて。いとこの悟君は、有名企業に入って、頑張っているっていう話をおばあちゃんから聞くと、比べてしまって、とても辛い。」

箸を持つ手が止まる。

母はかつて、父に内緒で起業資金になるようにとこっそりお小遣いをくれていた人だった。

「あなたは特別な子だから」――そう言って笑っていた。


その母が、今は涙をこらえながら言う。

「そんな不確かな夢を追うのはやめて」


「大丈夫だよ、母さん。俺を信じていいから。」

そう言いながら、悠馬は笑った。

だが胸の奥で、小さな声が囁いていた。

――本当に信じてるのは、何だ?


悠馬は最後の望みと考え、思い切って、宗形に会うことに決めた。忙しい宗形へのアポはかなり大変だったが、仕事と仕事の間の休憩時間にやっと会う段取りを取り付けることができた。






「君の名前をずっと覚えていたよ。少し話せるかな?」


その夜、ホテルのラウンジ。

宗形は紅茶カップのスプーンを何度も回しながら、穏やかに微笑んでいた。

「君を選んだ日のことを、今でも覚えてる。あの時、胸が締めつけられるような感覚があったんだ」


「……感覚?」

「うん。君が、私の大学時代の初恋の人に似ていたんだ」


悠馬は思わず息を呑んだ。昨日悠馬が宗形に会う予習としてウィキペディアの宗形の部分を読んだ時、確か子供が何人かいると紹介されていた。

「ご家族いらっしゃるんですよね?」

とっさに悠馬は聞いていた。

宗形は遠くを見るような目をしていた。


「もう二十年以上も前のことだ。彼は、自信たっぷりの人だった。でも、彼は人気者だったから、すぐ同級生と学生結婚してしまったよ。

 私の性的嗜好疑惑をかき消すために、たくさん子供を作ったよ。宗形家を残すためにも。妻は、ある意味同志と思っている。あの日、壇上で君を見たとき、初恋の記憶が全部よみがえった。

 正直言うと、君は彼よりかなり劣るけど、君のその笑顔が彼にそっくりで、君が“彼”の代わりに未来を生きてくれる気がして、気づけば優勝者に選んでいた」


静かな告白だった。

そう言いながら宗形は目を伏せた表情から、取り返せなかった青春の影が漂っていた。


「……じゃあ、自分が評価されたのは、僕じゃなくて“誰か”の代わりだったんですね」

悠馬の声は震えていた。


宗形は小さくうなずいた。

「すまない。本当の意味で、君を見てはいなかった」


何も言えなかった。

尊敬していた人の姿が、ただの俗物な人間のそれに見えた。


宗形は申し訳ないと思ったのか、今の金欠の悠馬にとっては有難い補助金

だったが、プロジェクトとしては、はした金ぐらいのお金を出してくれると言ってくれた。





夜風が頬を刺した。

街の灯りが滲み、ガラス越しに映る自分の顔が他人のようだった。


「代わりでもいい。

 俺は俺で、ここまで来たんだ」


呟いたあと、悠馬はゆっくりと息を吐いた。

胸の奥で、燃えるようなものが小さく再び灯る。


「見てろよ、宗形。――絶対に見返してやる」


スマホを取り出し、明日締め切りの提案書を開いた。

どんなに報われなくても、立ち止まるわけにはいかない。


「誰かの記憶じゃなく、俺の今を残してやる」


フリック入力する指先が、かすかに震えていた。

それでも、目はまっすぐスマホ画面を見ていた。


そして、このことが彼の生き方を変える絶好の機会だったのに、わからずやの主人公は、若さという人生の貴重な短い時間を浪費してゆくのだった。


おしまい。

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