3.
その後、ひかりさんの方で現地へ赴く許可を所長に申請してくれた。
既に事件発生から四日が経過していることもあり、所長からは早い方が良いと即決をもらって、早速翌日から現地に向かうことになった。宿や現地までの交通手段の手配も、ひかりさんから申請があってすぐ後に所長の方で済ませておいてくれたらしい。
滞在期間は四日間。滞在中に結論を出す必要はない。情報を集められるだけ集めて、その情報を吟味するのはセンターに戻ってきてからでもいい。この四日間を無駄にしないように、いかに効率よく捜査を進めるか、その段取りをひかりさんと話し合った。
そうして現在、早朝の六時半に、僕たちは新幹線の中にいた。
始発での出立になったが、これでも現地に到着するのはお昼前になってしまうのだとか。長野県と一口に言っても場所によってはかなり距離があり、僕たちが目指す旧
僕は昨夜遅くならないうちに資料を読み込んで、そこで気になった点を、現地に着く前に新幹線の中でひかりさんと共有しておくことにした。
〈捜査資料を見ていて思ったんですが、被害者の男児三人は全員姉のいる長男なんですね。しかもそれぞれの姉の学年は同じ、中学三年生です〉
新幹線の席は、二人掛けのシートに僕とひかりさんとで並んで座れるよう手配してくれてあった。とはいっても、捜査状況を公共の場で声に出すわけにはいかないので、支給されているスマホのチャットでやり取りをする。隣をちらと見てみれば、ひかりさんはまだ少し眠そうで、欠伸を噛み殺していた。少し寝かせてあげた方が良かったかもしれないとも思ったが、彼女が返信を打ってくれたので、このままやり取りを続けることにした。
〈例にもよって中学も一つしかありませんから、お姉さんたち同士も同じ学校に通っているわけですね。彼女らの仲がどうだったのかはわかりませんが、もしかしたら犯行の動機はお姉さんたちに関係があったりしますかね〉
僕もそれを考えた。だが、殺害されているのは当人ではなくその弟だという点が引っかかる。しかもそのうちの一人ではなく三人ともが殺害されているのだ。
それに、ここまで緻密な計画的犯行を中学生がやってのけるとは思えない。子ども同士の間に起きたいざこざではなく、大人の手が絡んでいるのは間違いないと考えた方が自然だ。
〈しかし、それだと何故弟を殺害するのかがわからないんですよね。雪姫伝説に登場する供物になぞらえるために男児を殺す必要があったとして、それは誰に捧げられたのか。伝説でいう〝雪姫〟に該当する人物が犯人だとすれば〝雪姫〟の怒りを買った何らかの出来事が事前に起きて、今回の事件に至ったと考えられます。しかし怨恨のようなものであれば本人を殺害しようと考えるものですし、弟を殺害して姉が悲しむかどうかも定かではないですから、何らかの復讐だったとしても、これで犯人の気が済むのかは疑問です〉
被害者の姉たちと関わりの深い人物が〝雪姫〟である可能性は全く否定できるものではないが、決定付けるには早計だろう。あくまでもこれは、
〈確かに、動機の面で不十分な仮説と言えそうですね……。もう一押し、何か決め手がほしいところです。〝雪姫伝説〟といえば、雪姫祭りは観光客にも人気らしくて、当日は県外からも人が大勢来ていたようですよ。この観光収入は自治体の財政を支えるためにも重要なもののようですから、少なくともこの日に限っては〝お客様〟に対していつも以上の〝おもてなし〟をしていたんじゃないかと思います〉
ひかりさんの方からも、昨夜のうちに調べたことを僕と共有してくれた。
雪姫祭りに関するSNSの投稿を一通り見て回り、投稿された画像に対して被害者の顔写真と照合するプログラムを組んで実行したが、何もヒットしなかったらしい。
これは偶然にも観光客がネットリテラシーのある者ばかりだった可能性もあるし、被害者たちは雪姫祭りの会場に現れなかった可能性もある。偶然でも写り込んでいたら何らかのヒントになったかもしれないが、これでは何とも判断しがたい。
〈もしかしたら、大人たちも子どもの面倒を見ている場合じゃなかったかもしれないってわけですね。子どもたちが会場に行っていなかったとしても、現地は多くの観光客で溢れていたでしょうし、それなら人目があるはずの祭りの時期でも、逆に人混みに紛れて誘拐するということは可能かもしれないですね〉
だからこそ犯行のタイミングとして、わざわざこの時期を選んだのかもしれない。そうすると、雪姫伝説になぞらえたのはカモフラージュという可能性もある。この時期を選んだ理由が雪姫伝説ではなく、この村で唯一村の内外の人間が多く入り乱れるタイミングを狙ってのことだったとしたら、先ほど考えた怨恨説は全くの見当違いということになる。
〈そうなんです。そうすると、犯人が村の中の人間とも限らなくなってきますよね。もしそうだったら割りとお手上げな気がしているんですが……
〈村の外の人間の犯行とするには、さすがに手が込み過ぎていませんか? 仮に酔ってタガが外れた観光客の仕業だったとしても、この規模はそもそも単独犯ではないでしょうし、一緒に居たグループの中の誰かしらがさすがに制止させるでしょう。複数人での犯行の可能性は高いとは思いますが、もっと、犯行に加担した全員が明確な殺意を持っていたのではないかと思うんです〉
それくらい異様な事件だ。同じ村の中といっても、地図を見てみれば被害者同士の家はそこそこ距離がある。一人で被害者たちを各所に運んで回るにしては時間がかかり過ぎる。当時は雪も降っていて夜間だったことも考えると、土地鑑もない村の外の人間の仕業という可能性はぐんと低くなるのではないだろうか。
とはいえ、被害者の死因がすべて窒息だということを考えると、雪玉にした意味は何だったのか。一日を通して気温が低いので雪がとけはしないのだろうが、それにしても死体を隠すにしては大胆過ぎる。
しかも、その雪玉を隠すでもなく被害者の家の前に雪だるまとして置いたのだ。この雪だるまにするという行為は、犯人からの何らかのメッセージだと捉えた方が良いのだろうか。
〈これらがすべて同日の、ほぼ同時刻に行われたらしいということが、せめてもの救いですね。それなら恐らく連続性はないでしょうから、被害者が増えるということはなさそうです。逆に言えば、この三人が被害者である必然性があったという可能性が高いというわけでもありますよね〉
確かにひかりさんの言う通りだ。
そう考えても、やはり外部犯の可能性は極めて低いのではないかと改めて思わされた。この三人の男児を被害者に選ぶ必然性が、村の外部の人間にあるとは考えにくい。偶然だとしても、手が込んでいる割りにリスクが高すぎる。ある程度村の情報を知っていたりこの雪の山村に対する土地鑑がなければ、やはり犯行は難しいのではないかと思う。
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