三度目の奇跡はなかった

@2587810

プロローグ『最悪の結末』




春がすぐそこまできているというのに、ひどく冷たい風の吹く午後だった。


「どいて!通して!」


城下の広場に詰めかけた数百人の群衆を、私はかき分けていく。

数十メートル先の絞首台の上には、見知った顔が並んでいる。

エアハード。エルフリーナ。バルドリック。

共に革命を志した、幼馴染の三人。

拷問を受けたのだろう。遠目にもわかるほど顔は腫れあがり、手足の先は赤黒く変色している。

いつでもきちんとした身なりを心がけていたエアハードはぼろ切れを着せられていた。

エルフリーナの長く美しい金髪は無惨に切り刻まれていた。

剣豪として名を馳せたバルドリックの右腕は、あらぬ方向にねじ曲がり、垂れ下がっていた。

両腕を縛られた三人には、もはや抵抗する気力もないようだった。


「やめて!」


群衆にもまれながら、私は叫んだ。


「殺さないで!」


けれど私の声は、群衆の騒音にかき消されてしまう。


「バルディ!エルド!エリナ!」


どれだけ叫んでも届かない。

私が叫べば叫ぶだけ、周囲の怒号や野次も大きくなる。

それでも私は声を張り上げる。

お願い、届いて、と。

こんなのは間違っている。誰か止めて、と、喉を割くようにして叫ぶ。


「いい加減におし!」


ふいに伸びた手が、私の口を塞ぐ。


「静かにしないか!アンタまで殺されちまう!」


「そうだ!せっかく逃げ延びたんだろ!」


一人の手ではない。周囲の人びとは、私の行く手を塞ぎ、私の口を塞ぎ、黙らせようとする。


「裏切り者を殺せー!」


私の口を塞ぐ男が、叫ぶ。


「そうだー!売国奴を許すなー!」


私の手をつかむ老婆が、叫ぶ。

彼らはみな、私たちの革命運動を支持してくれた同志だった。

けれどいま、彼らは革命の主導者たち、私の三人の幼馴染を罵り、石を投げる。

死ね、と。

お前たちのせいで自分たちの生活はめちゃくちゃになったのだ、と。

心にもない言葉を投げかける。


「こうしないとあたしたちが殺されるのよ」


赤子を抱えた女が、私に耳打ちする。


「革命は失敗したの。いまならまだ、首謀者の三人が処刑されるだけで済む」


だからあんたは黙っていなさい、と女は言う。


「彼らだってそれを望んでいるはずよ」


ふいに、群衆が静まり返る。

壇上に国王が現れたのだ。

国王は歪んだ表情で石を握る群衆を見渡し、満足そうに頷く。

そして刑の執行を高らかに宣言する。

――――私欲のために国家転覆を企て、民衆を謀った逆賊。

――――無辜の民に罪なき貴族を謀殺させた悪魔。

彼らはあらん限りの汚名を着せられ、極刑を課せられる。


(違う!)


私はそう叫ぼうとする。


(私欲なんかじゃない!私たちは圧政から人びとを解放するために戦ったんだ!)


けれど力強く塞がれた口からは、言葉にならない呻きが洩れるだけだった。

私がなにもできないでいる間に、憎き暴君は壇上を降り、なによりも大切な三人の首に縄がかけられる。

三人はすべてを諦めきった表情をしている。

私は泣きながら三人の名を呼ぶ。

叫びはやはり言葉にならなかった。

しかし三人はそれを感じ取ってくれた。

壇上の三人と、群衆に紛れる私の目が、合った。


三人は笑った。


周囲の人びとに押さえつけられ、泣きじゃくる私を見て、安心したように微笑んだ。


――――ヴェラが無事でよかった。


そんな声が聞こえてきそうな微笑みだった。


次の瞬間、三人の足場が外される。

足場を失った三人は、首にかけられた縄によって宙づりにされる。

群衆は悲鳴と歓声の入り混じった喧騒に包まれる。



そうして、私は一人、生き残った。

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