天気予報が、外れたら?

@AKIRA54

第1話 天気予報が、外れたら?

天気予報が、外れたら?


「明日の天気予報は……?」

と、テレビのスイッチを入れて、高村が言った。

「何?明日、山に行くの?」

と、ベッドの中から、ほぼ裸体状態でわたしは訊いた。

「山岳部の毎年恒例の年末の行事さ!初日の出を山頂から眺めるんだ!毎年、幹事が選んだ山に登るんだよ!今年は、秋田の山に決まったんだ……」

「秋田の山?あんた、去年、部活の『O・B』の人に誘われたパーティーで、遭難しかけたんじゃなかった?秋田の山は、鬼門じゃないの?」

「大丈夫だよ!去年から、ずいぶん経験を積んだし、今回は、クライミングはないコースさ!ひたすら歩いて、途中の山小屋で休憩するんだ……」

「でも、気をつけてね……。二十歳で『未亡人』になりたくないから、ね……」

と、わたしは言って、高村の頬にキスをした。ふたりは、クリスマスの日に入籍したばかりだったのだ。

「それに、今夜、子供を授かった気がするのよ!タカシ、いっぱい出したでしょ?わたしも、何度も『イっちゃった』けど、ね……」


「それで?わたしに何をして欲しいの?」

と、女優のような美貌の霊媒師が尋ねた。

「秋田県の警察に一緒に行って欲しいんです!」

と、わたしは言った。

「秋田県の警察?何をしに……?こんな、新年早々に……」

と、ミユキという霊媒師がうんざりした口調で言った。

「高村岳史をご存知でしょう?去年というか、もう一昨年(おととし)になりますけど、秋田の山中で、遭難して、パーティーの女性が行方不明になった事件で、ミユキさんとクロウさんにお世話になった!と夫が言っていました……」

「高村岳史さん……?ああ、コ、いや、レイさんという女性が、遭難した事件ね?あの時の高村さん、ご結婚されたの?まだ、大学生のはず……」

「はい!学生結婚です!籍だけ入れて、式は卒業してからの予定です!」

「それで?ご主人の高村さんが来ないで、初対面の奥さまが来られた!ってことは、また、高村さんに何かあったの?秋田県って、その遭難事件があった山があるところよね……」

「説明は、タクシーの中で……。汽車の時間が迫っているんです!表にタクシーを待たせています……」


「去年の年末に、大学の山岳部の年末恒例の初日の出を拝む登山があったんです。それが、秋田県の田沢湖の奥の山で、確か……『乳頭山』とかいう山で……、麓の『乳頭温泉郷』に一泊して、忘年会を楽しんで、翌日、登山して、頂上付近の山小屋で泊まって、朝、日の出を拝む!というコースだそうです……」

と、秋田方面行きの列車の座席で、わたしはミユキさんに、今回の依頼について話し始めた。

「乳頭山?なんだか、卑猥な名前ね……」

「秋田県と岩手県の県境にあって、岩手県では、『烏帽子岳』というそうです……」

「そっちは、普通ね!きっと、山の形が、烏帽子に似ているんでしょうね……。それで、高村君は、また遭難でもしたの?」

「いえ、詳しいことは、わからないのですが、殺人事件の容疑者として、勾留されているんです……」

「さ、殺人事件?高村君が人を殺(あや)めた!ってこと?」

「違います!絶対違う……、と思います……。けど、現場の状況から見て、岳史さんか、もう一人の鵜藤さんかのどちらか、あるいは、ふたりの共謀だ!としか考えられないそうです……」

「なるほど、雪山で、起きた事件だから、現場にいる人間は、限られているのか……。で、殺人現場は、何処で、誰が殺されたの?」

「今回の企画をした、幹事で地元出身の佐々木大地という、四年生です……。場所は、乳頭山の山小屋だそうです……」

「山小屋?なら、山岳部の連中が他にも何人かいたんじゃないの?」

「それが……」

と、わたしは岳史が警察に連行される前に、電話連絡してきた内容と、同行した山岳部の後輩からの情報を総合して、ミユキさんに語り始める。

乳頭温泉郷で忘年会をしていた山岳部のメンバーは、翌日の天気予報を聞いて、登山を諦める方向に、意見がまとまりかけていた。天気予報では、大雪!視界が悪く、日の出は見えない!との予報だったのだ。

「初日の出が拝めないなら、この温泉にもう一泊するか、田沢湖の方に泊まって、新年を迎えるほうが楽しいよ!」

そういう意見に賛成する部員が多数だった。

「天気予報なんて、当てにならないぜ!昨日だって、雪の予報だったけど、ほとんど、降ってないじゃんか……」

と、幹事の佐々木が言った。

「天気予報は、秋田市内の予報さ!山の頂とは、違うんだ!それに明後日の元日は、晴れの予報だぜ!山小屋で泊まっているうちに、晴れてくるさ!」

と、佐々木派の鵜藤が言った。

天気予報では、昨日は『ところどころ雪』という予報だった。明日は『市内でも積雪、大雪になるかもしれない』という予報なのだ。今年は、例年より、降雪が少ないシーズンだった。

「それにさ!天下の『晴れ男』の高村と鵜藤がいるんだぜ!」

と、佐々木が言った。

「高村と鵜藤は、一年生の時、富士山で初日の出を拝んだんだ!天気予報は、最悪。だけど、八合目の山小屋に泊まっていたら、雨混じりの雪が止んで、星空が見えたんだ!それで、山頂に行って、初日を拝むことができたんだぜ!それだけじゃない!翌年は、蔵王!去年は、北海道の羊蹄山!天気予報が外れて、三年連続、初日を拝んでいるんだ!ここ、二十年の山岳部の歴史で、三年連続は、タイ記録らしいぜ!今年は、四年連続の記録更新するんだよ!」

高村岳史と鵜藤晴雄のコンビは、山岳部では、伝説になっていたのだ。初日の出だけではなく、他の登山のスケジュールの時も、ふたりがいると、何故か天気予報が良い方に外れるのだった。

「山の天気は『娘心』と同じで、変わり易いのさ……」


「それでも、反対派が多かったそうです……。乳頭山は、結構遭難する登山者が多いこともあって……」

と、わたしは言った。

結局、四年生の、佐々木と、高村、鵜藤の三人が、山小屋まで行き、天気予報が外れたら、山頂に登って、初日の出の写真を撮ってくることになった。他の部員たちは、半数がそのまま、温泉宿に泊まり、半数は田沢湖の旅館──佐々木の伯母が女将をしている──に泊まることになった。

佐々木は、地元の人間だから、高校時代に、何度も秋田駒ヶ岳から、乳頭山をトラッキングしたことがある。雪山でも、登山道は、しっかりわかっているし、山小屋を目指すコースは、装備さえしっかりしていれば、山岳部の連中には、それほど難しいコースではなかった。だから、時間的には余裕を持って、出発したのだ。

雪が降り始めたが、視界は不良とまではならず、午後には山小屋に到着した。薪を焚き、装備を外し、食事をした。

「明日、天気予報が外れたら……、いいのになぁ……」

と、鵜藤が言った。

「翌朝、というか、未明に雪は止んでいたそうです。それで、初日の出に間に合うように、装備をしていたのですが、佐々木さんが、足を捻挫してしまったようで、時間的に頂上に、たどり着けない状態になって、小屋に留まることにしたのです……」

と、わたしは岳史から聞いた話をミユキさんに伝えた。

岳史と鵜藤は、無事山頂に到着して、岩手山が眺められる眺望と、登ってくる元日の朝陽を拝み、三脚に取り付けたカメラでふたり肩を組んで『ピースサイン』の記念写真を数枚撮って、下山したのだ。

「ところが、山小屋に帰ってくると、山小屋の扉は、中から閂(かんぬき)がかかっていて、ノックしても、声をかけても、佐々木さんの応答がなかったそうです。小屋の硝子窓から覗くと、囲炉裏に薪は燃えているし、佐々木さんの荷物も眼に入りました……」

閂は、風で扉が開かないための簡易なものだった。

思い切って、ふたりは扉に体当たりして、木製の扉を壊して、山小屋に入った。

「扉のすぐ側の土間と上がり框にまたがって、佐々木さんがうつ伏せに倒れていたそうです。後頭部から、血を流して、息はありませんでした……」

「まさか、密室殺人事件……?」


「まあ、重要参考人だから、ね……」

と、角館警察署の担当刑事が言った。

岳史と鵜藤のふたりは、角館警察署に勾留されていた。ただし、逮捕状は出ていないので、本日中には釈放の予定だ。ふたりは、犯行を否認している。

「君が高村岳史の身元引き受け人になるのか?妻ということだが……、随分若い夫婦だな……。それで、こちらは?」

と、刑事がわたしから、隣に座っているミユキさんに視線を移して、尋ねた。

「アヤネさんの付き添い人です!彼女は、妊娠中ですから……」

と、わたしが答える前に、ミユキさんが答えた。

(えっ?わたし妊娠してないよ……)

「ああ、看護婦さんか?妊娠中なら、大事にしないとな……。秋田は、寒いだろう?」

「京都も寒いですわ!それより、何故、高村さんが容疑者なんですか?高村さんと鵜藤さんは、乳頭山の山頂に登山して、初日の出の写真を撮っているはずですよ!つまり、アリバイがあるんではないですか?」

と、ミユキさんが言った。なるほど、写真を現像すれば、初日の出の山頂にふたりがいたことが証明できる。佐々木さんの死亡推定時刻が何時か知らないが、充分なアリバイになるはずだ。

「ああ、今、それを検討中だ!完璧なアリバイを示す写真だから、かえって、偽装工作じゃないか?との疑惑もあって、ね……」

「死因と、死亡推定時刻は、どうなっていますか?」

「何だ?君は、看護婦だろう?探偵みたいに……」

「アヤネさんの精神的な負担をできるだけ早く無くしたいのです!警察に協力させていただきますわ!」

と、ミユキさんが刑事を睨むような視線を送って言った。

死因は、後頭部に鈍器による打撲と裂傷があって、強い脳震盪を起こしたためだ。即死ではないが、打撃から、数分後には、死亡している。推定時刻は、午前六時半から七時半頃。日の出の時間が七時数分前だから、高村と鵜藤が山頂付近に到着した頃から、下山途中の時間帯だ。だから、写真が本物であれば、ふたりにはアリバイがあるわけだ。

「しかし、天気予報は、大雪だったんだよ!それなのに、山に登ること自体が怪しいし、係官が山小屋に到着した頃には、大雪になったんだ!わずか、半日足らずだけ、雪が止んでいたなんて、あり得ないだろう?写真は、別の日に撮ったものに決まっているよ……。それに、ふたりはひとつだけ、嘘をついている。被害者の佐々木大地が、足首を捻挫をしていた!と言ったが、検視の結果、捻挫の症状は、ないそうだ……」

警察がふたりを容疑者と考えている理由が他にもあるのだ。地元の交番の巡査が山小屋に到着した頃に、止んでいた雪が、再び降り始めたようだ。巡査は、雪が積もる前に、山小屋周辺の写真を撮っている。山小屋の周りには、高村と鵜藤のふたりのカンジキの跡しかなかった。つまり、ふたりと被害者以外、山小屋に近づいた者は、早朝、雪が止んで、降り始めるまでの間には、いなかったことになるのだ。

「足跡のない、犯人……。密室殺人事件……。ミステリーの王道ですね……」


「ここが、田沢湖か……。日本一、深い湖ね!真冬でも氷らないのは、辰子姫の所為らしいわ……」

と、ミユキさんが言った。わたしたちは、田沢湖の湖畔を歩いている。わたしたちとは、高村岳史も含まれている。

「へえ~、ミユキさん、博学なんですね?」

「そこの女性像の説明文に書いてあったのよ!今、仕入れた情報よ!」

と、ミユキさんは、微笑みながら言って、田沢湖湖畔を時計回りに北側に移動して行く。

「ここが、辰子姫を祀っている『御座石神社』ね……」

湖畔の遊歩道の北側に入ったところ、すぐに赤い鳥居と、小さな社殿があった。

「よし!ここにしよう!高村君!あなた、隠し事や、嘘はついていないでしょうね?」

と、ミユキさんが振り向きながら、岳史に尋ねた。

「隠し事?嘘はついていませんが……、隠し事……?アヤネとの仲のことですか?まだ、籍を入れたばかりで、結婚式は開いていませんよ……。ミユキさんとクロウさんをご招待しますよ……」

岳史は、一応、アリバイがあったので、逮捕には至らず、保釈されたが、しばらく、田沢湖辺りに留まるように言われていた。そこで、田沢湖に宿を探して、三人で泊まることになったのだ。

アリバイになったのは、写真だ。初日の出の写真の前に、忘年会の写真があった。それに一緒に写っていた、温泉宿の可愛い女中さんが、証言してくれて、写真の捏造説は、氷解したのだ。

「違うわ!例のコユキさん、あるいは、レイさんのことを、誰かに……、たぶん、佐々木君に話したんじゃない……?」

と、ミユキさんが、岳史の瞳をじっと見つめて、言った。

「佐々木に……?いえ!あのことは……、アヤネには、話しましたけど……」

「なるほど、それをアヤネさんが佐々木君に話したのね……」

「えっ?アヤネ、本当か?」

と、岳史がわたしを追及するように尋ねた。

「秋田に行く!って言ってたから……、幹事の佐々木さんに、雪女に気をつけて!って話したのよ……。悪気はなかったわ!でも、それが事件と関係があるの?」

わたしは、ちょっとパニックになって、言い訳気味に訊いた。

「乳頭山の岩手県側は、ロッククライミングのコースになっているのよ!高村君が遭難しかけた山とよく似ているの……。雪女の伝説は、岩手県にもある……、というか、岩手県や青森県が多いのよ……」

「まさか、佐々木は、雪女に殺された!というんですか?」

「たぶん、違うよ……。雪女に殺されたのなら、凍え死んでいるはずだし、囲炉裏の薪は燃えていないよ……」

「じゃあ、佐々木の死に雪女は関わっていないのでは……?」

「さて?少しは関わっているかもしれないわ……。つまり、佐々木君が、雪女に関わろうと……、つまり、彼が『捻挫した!』と嘘をついて、山小屋に残ったのは、雪女とコンタクトを取ろうとしたからだ!と思うのよ、ね……」

「雪女に逢うために、山小屋に残ったのですか?」

「高村君!覚えているでしょう?わたしがコユキという雪女とコンタクトしたのは、山小屋か炭焼き小屋かわからない、場所だったこと……。雪女は、そういうところに、年末から年始に、現れることが多いそうですよ……」

「それで、佐々木は雪女に逢ったのでしょうか?」

「それをこの社殿の前で、確認したいと思うんです!わたしの祈祷の能力を使って、コユキさんにコンタクトしてみます……」


「それで、コユキさんという雪女とコンタクトできたのですか?佐々木さんの事件の真相は、わかったのですか?」

と、わたしはミユキさんに尋ねた。御座石神社の前で、わたしと岳史はミユキさんと別れて、宿に帰って、ミユキさんの帰りを待っていたのだ。神社での祈祷に立ち合うことは、許されなかった。雪女のことを他人に話すという、タブーをわたしたちは、犯してしまったからだ。

宿に帰ってきたミユキさんは、表情がすぐれず、先に湯に入る!と言って、浴場に向かった。ゆっくりと湯殿で温まったあと、夕食の時間に、三人が顔を揃えたのだ。

「うまくコンタクトはできたわ!事件の真相も、ほぼ解明できた……。わからないのは、何故、佐々木君が雪女とコンタクトを取ろうとしたかよ……」

「たぶん、僕と同じです!佐々木は一度、高校時代に、乳頭山の東斜面で、滑落したんです!その時、助けてくれた女性がいたんです……。あいつは、その女性に逢いたかった……。雪女だとしても……」

と、岳史が言った。

「なるほど、それで、真相が解明できたわ!佐々木君は、殺されたのではなく、事故死だったのよ……」

「事故死?佐々木は、山小屋の中で、密室状態で死んでいたんですよ!崖から、落ちたわけじゃない……」

「まず、今回の山登りの計画について、話すわ!乳頭山は、それほど険しい山じゃないけど、遭難事故が多いのよ……。そんな山じゃなくても、初日の出は拝めるはずよ!なのに、佐々木君は、乳頭山を選んだ……。それは、過去に出会った『雪女』に逢うためだったのよ。だから、初日の出が風雪で見えないほうがよかったのよ!山小屋で泊まって、わたしがしたように、雪女に語りかければ、雪女が現れる!と期待して、ね……」

「初日の出じゃなく、雪女に逢うための企画だったのか……」

「四年生だから、最後のチャンスだったのよ……」

「じゃあ、天気予報どおり、大雪だったほうが、よかったんですね?晴れ間が出たから、山頂に向かうことになって、急に捻挫したことにして、山小屋に残った!ってことですもの、ね……」

「そうね……、アヤネさんの言うとおりね……。小屋に残った所為で、彼は死ぬことになったのよ……」

「事故って、どんな事故なんですか?」

「佐々木君は、高村君と鵜藤君を見送って、山小屋の中に籠り、薪をくべて、祈ったのよ!あの日、自分を介抱してくれた女性に、出てきて欲しいと……」

「それで、女性、つまり、雪女が現れて、佐々木は驚いて、上がり框に後頭部を打ち付けた!ってことですか?」

「まさか、上がり框に打ち付けたなら、上がり框に跡か血痕が残るわ!警察がそれを見逃すはずはないわ……。でも、いい線をついているわよ!朝陽が登ったあと、扉を叩く音がしたの!佐々木君は、女性が現れた!と思って扉を開ける。屋根から、大きな、氷柱(つらら)が落ちてきて、彼の後頭部を叩く。彼は朦朧として、中に戻り、閂をかける。そして、前のめりに倒れたのよ……。氷柱は、雪の中に埋もれてしまう。あるいは、一部は、小屋の囲炉裏の熱で解けてしまう……。密室殺人事件のような状況になった……。これが真相よ……」


エピローグ(ミユキの独り言)


「なんだ!ミユキさん、秋田に行っていたんですか?庵にいないから、心配していましたよ!」

と、クロウが言った。一月七日、七草粥を食べている。珍しく、『心霊等研究所』の二階の所長の家族と一緒だ。秋田土産の『いぶりがっこ』を持参したわたしを、娘のセンちゃんが迎え入れてくれたのだ。

わたしは急にアヤネからの依頼で住処の庵を離れたから、所長にも、クロウにも連絡をしていなかったのだ。クロウが心配しているのは、わたしの命や身の危険ではない!わたしが、旋空君や浄空さんとクロウに内緒で活動していないかを心配しているのだ。ふたりは、高野山の呪術師だ。

クロウの心配のタネを解消させるために、田沢湖から乳頭山での出来事を話してやった。

「また、高村君と雪女の絡んだ仕事だったんですか?なら、僕も行きたかったな……。コユキさんにも逢いたいし、田沢湖辺りの温泉に入りたかったなぁ……」

「おい!クロウ!雪女のことを話したら、命の保証はないぞ!」

「あっ!これ以上は喋りません……」

「それで、事件は解決したの?」

と、センちゃんが訊いた。

「ああ、高村君に警察へ行って、『思い出したことがある!頂上から山小屋に帰ってきた時、雪の上に氷柱が落ちていた!もしかしたら、佐々木君の頭の傷は、氷柱の所為じゃないか……』って、話して来い!って言ったんだよ。それで、担当の刑事さんと最初に現場に行った交番の巡査が、山小屋に向かったんだよ。扉の前の雪を掘ったら、まだ解けていない氷柱があった。わずかだけど、血痕らしきモノがあって、写真を撮って、クーラーボックスに入れて、鑑識に回した。結果は知らないけど……」

「そっちのほうが、捏造臭いですね……?」

と、事務所の受付嬢で、わたしの又従姉妹にあたるカナが言った。

「ええっ!ミユキさん!証拠を捏造したんですか?」

「いいじゃないか!真実を警察に教えるためだよ!ちゃんと、コユキさんに確認したんだよ!元日の朝から、雪女に逢いたい!ってうるさい祈りの声が聞こえて、様子を見に行ったら、氷柱が落ちて、男の頭に当たったんだってさ!そのままじゃあ、凍死するから、小屋の中に入れて、風で扉が開かないように、閂をかけてやったんだってさ……」

「ええっ!密室になったのは、雪女の所為だったんですか?」

「クロウ!雪女って言葉は禁句だ!って言っているだろう!わたし以外は、ね……。まあ、話を戻すと、コユキさんに頼んで、佐々木君の血痕を少し着けた氷柱を、小屋の前に埋めてもらったんだよ。天気予報が外れて、雪が降らなかったから、刑事さんと巡査が山小屋に到着できてよかったよ!まあ、それも、コユキさんのおかげだけど、ね……」

わたしは、それ以上は語らなかった。

佐々木君が高校時代に逢った女性は、雪女ではなく、偶然別の遭難者のメンバーで、看護婦の資格を持っている登山者だったのだ。佐々木君に出会ったおかげで、下山のコースがわかり、無事にメンバーも下山できたらしい。

そして、もうひとつ、高村君の『奇跡的晴れ男伝説』は、雪女のコユキさんの天気操作のおかげだった。つまり、今回も天気予報が外れたのは、コユキさんのパワーだったのだ。

「はなさないで!」

と、コユキさんに言われたから、みんなには、秘密だ……。

その時、事務所の電話がなった。出てみると、アヤネからだった。お礼の電話と、報告だった。

「ミユキさんの予言どおり、妊娠していました!ただし、年末じゃなく、そのひと月前の行為で!みたいです……。天気予報と一緒で、わたしの予想も外れちゃいました。3月に結婚式をします!是非、出席してください、ね……」

(ああ、その日の天気予報も、外れるかも、ね……)



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