破滅都市ヴォーデンベック ―記憶喪失兵オリバー
ケロタコス
第0話 改造
「……良いのか、エマ」
「良いのよ。だって、戦争だもの」
彼女は迷いなく言った。
「徴兵を拒めば殺されるわ。あなたも例外じゃない」
「ああ……分かってる。ただ、君と過ごした記憶まで消えるのは……」
エマは一瞬だけ視線を伏せ、それから微笑んだ。
「大丈夫。そこは、ちゃんと話をつけてきたわ」
彼女はオリバーから一歩離れ、実験カプセルの方を見る。
「さあ、行って」
「……またな、エマ」
二人は言葉を重ねず、ただ互いの目を見つめた。
それが最後の別れになると、どちらも分かっていた。
オリバーはカプセルに横たわる。
蓋が閉じ、外の音が遮断される。
――改造が始まった。
*
一年後。
都市ヴォーデンベック。
「いいか、諸君!」
豪奢な鎧に身を包んだ騎士団長が、整列した兵士たちを見渡した。
「我々はミミック、ウルフマン、リザードマン、オーク――その他諸々の魔物どもに屈することはない!」
広場に響く声。
「確かに、我々には魔法は無い。だが――」
一拍置き、拳を握り締める。
「我々には科学がある!」
兵士たちの鎧が、鈍く光を返した。
「このアウスロッシャー重騎士団が、この世界の魔物を殲滅する!」
演説が終わり、兵士たちは隊列を崩す。
次に行われたのは、相棒の選定だった。
各兵士に与えられる相棒は、機械仕掛けの鳥。
配給を担当しているのは、一人の博士と、その助手である。
博士は鳥を示しながら淡々と性能を説明し、助手が無言で兵士たちに手渡していく。
白衣を着た助手は、終始俯きがちだった。
兵士一人ひとりに相棒を渡しながら、視線を上げることはない。
やがて、オリバーの番が来た。
博士は彼を一瞥し、短く言った。
「お主には、こいつじゃ」
差し出されたのは、銀色の装甲をまとった大きなくちばしの機械鳥。
――オオクチバシ。
オリバーがそれを受け取る、その瞬間。
助手の手が、ほんの一瞬だけ止まった。
白衣の袖が、わずかに震える。
だが彼女は何も言わず、すぐに次の準備へと戻った。
オリバーは気づかない。
その助手が、かつて別れを告げた女性――エマであることを。
エマは胸の奥で、密かに再会を喜んでいた。
それを悟られぬよう、ただ静かに。
機械鳥は、まだ鳴かなかった。
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破滅都市ヴォーデンベック ―記憶喪失兵オリバー ケロタコス @QUEROTACOS
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