破滅都市ヴォーデンベック ―記憶喪失兵オリバー

ケロタコス

第0話 改造



「……良いのか、エマ」


「良いのよ。だって、戦争だもの」


彼女は迷いなく言った。


「徴兵を拒めば殺されるわ。あなたも例外じゃない」


「ああ……分かってる。ただ、君と過ごした記憶まで消えるのは……」


エマは一瞬だけ視線を伏せ、それから微笑んだ。


「大丈夫。そこは、ちゃんと話をつけてきたわ」


彼女はオリバーから一歩離れ、実験カプセルの方を見る。


「さあ、行って」


「……またな、エマ」


二人は言葉を重ねず、ただ互いの目を見つめた。

それが最後の別れになると、どちらも分かっていた。


オリバーはカプセルに横たわる。

蓋が閉じ、外の音が遮断される。


――改造が始まった。



一年後。

都市ヴォーデンベック。


「いいか、諸君!」


豪奢な鎧に身を包んだ騎士団長が、整列した兵士たちを見渡した。


「我々はミミック、ウルフマン、リザードマン、オーク――その他諸々の魔物どもに屈することはない!」


広場に響く声。


「確かに、我々には魔法は無い。だが――」


一拍置き、拳を握り締める。


「我々には科学がある!」


兵士たちの鎧が、鈍く光を返した。


「このアウスロッシャー重騎士団が、この世界の魔物を殲滅する!」


演説が終わり、兵士たちは隊列を崩す。


次に行われたのは、相棒の選定だった。


各兵士に与えられる相棒は、機械仕掛けの鳥。

配給を担当しているのは、一人の博士と、その助手である。


博士は鳥を示しながら淡々と性能を説明し、助手が無言で兵士たちに手渡していく。


白衣を着た助手は、終始俯きがちだった。

兵士一人ひとりに相棒を渡しながら、視線を上げることはない。


やがて、オリバーの番が来た。


博士は彼を一瞥し、短く言った。


「お主には、こいつじゃ」


差し出されたのは、銀色の装甲をまとった大きなくちばしの機械鳥。


――オオクチバシ。


オリバーがそれを受け取る、その瞬間。


助手の手が、ほんの一瞬だけ止まった。

白衣の袖が、わずかに震える。


だが彼女は何も言わず、すぐに次の準備へと戻った。


オリバーは気づかない。

その助手が、かつて別れを告げた女性――エマであることを。


エマは胸の奥で、密かに再会を喜んでいた。

それを悟られぬよう、ただ静かに。


機械鳥は、まだ鳴かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 日曜日 09:00 予定は変更される可能性があります

破滅都市ヴォーデンベック ―記憶喪失兵オリバー ケロタコス @QUEROTACOS

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画