第4話 元カノとの思い出は永久保存でしょ!?
互いに犬歯を剥き出し合い額を押し付け合う二人。
両手を机についているのでまるで四つん這いの獣そのものである。
「ふっ、両者そろって女子力が高いな元カレ殿?」
黑井百合花(くろい・ゆりか)は俺の肩に肘を乗せて来た。
「この姿に女子力を感じる男子がいたら眼科を勧めとけ」
俺は苦み走った声を返した。
まぁ、ある意味では女子力を感じるがな……。
二人は前かがみの四つん這いポーズである。
必然、左右の腕に挟まれ、肉感たっぷりと溢れるご立派様が強調されている。
いかんいかん。
俺が視線を逸らそうとすると、双璧ならぬ双子山の間から、歩美の怯える表情が半分見えた。
言い知れぬシンパシーに同情しかなかった。
元華や叶音のような非常識人の傍若無人にはいつだって俺や歩美のような常識人が犠牲になるものだ。
一刻も早く、常識人が平穏無事に過ごせる世の中にならなければならない。
という風紀紊乱の世を儚む立派な考えに思考を巡らせている間も、二人は醜い争いを繰り広げる。
「だいたいパフェなんてただクリームと果物混ぜただけでしょ? 架礼斗の家庭科学習にならないわよ!」
「架礼斗架礼斗っていつまで元カレのこと引きずっているのよこの鉄壁女!」
「あたしのどこが鉄壁なのよ!? 貴女こそまな板じゃないの?」
ブレザーの前を開けてから、元華は両腕を胸の下で組んで持ち上げた。
年齢に不相応なご立派様が雄大に揺れて、バケツプリンを思わせた。
クラス中が水どころか銃弾を撃ち込んだように静まり返り、男子たちが息をのむ音を聞こえる。
「絶壁じゃなくて鉄壁よこの淫乱委員長! つかまな板じゃないし! 魅惑のFカップなめんじゃないわよ!」
叶音もまた、ブレザーを脱ぐと両手を頭の後ろで組み、背を逸らして自身のボリュームを誇示した。
隣のクラスからも雑音が消え、耳に入るのは競馬新聞にペンを走らせる先生の筆記音だけだった。
思いがけず始まったおっぱい大戦に、男子である俺の出る幕はない。
クールに去ろうと、俺はゆっくりと椅子の上から滑り下りる。
「ふんっ、たかだかFカップ程度で偉そうに! 架礼斗は爆乳大好きおっぱい星人なのよ! 付き合っている時、架礼斗がどれだけあたしの胸をガン見していたと思っているの!? 顔見ている時間より長かったわよ!」
「それを言うなら架礼斗なんてアタシの水着姿を撮るの大好きなんだから! 架礼斗のスマホはアタシの水着画像でパンパンよ!」
「甘いわね。架礼斗が128GBのスマホに買い替えたのはあたしの水着姿の動画を撮り過ぎたせいなんだからね!」
おっぱいバトルに光の速さで参戦せねば! 俺の名誉の為に!
「元条君、僕ら友達だよね? 何も言わずに君のスマホを貸してくれないかな?」
くたばれ山之内。
「っっ、アタ、アタシなんて架礼斗に下着姿まで撮られているのよ!」
それはどこの架礼斗君だ!?
「あたしなんてバスタオル姿まで撮影されたわよ!」
お前は脳外科へ行け!
「みんな! 元条のスマホを奪え!」
『うおぉおおおおおおお!』
山之内、お前は今日こそ警察のお世話になれ!
「それと架礼斗、サイズならワタシが学園随一だ」
なんのアピールですか百合花さん?
「お前ら嘘をつくのも大概にしろ! 俺のスマホにいつお前らのそんな写真が入ったんだ!?」
俺が怒鳴ると、二人は同時にスマホを操作した。
俺のスマホがぶるっと振動した。
「い、いま送ったわ……他の人に見せちゃダメなんだからね……」
「今夜、使ってもいいわよ……」
叶音と元華は赤面に両手を当ててうつむいた。
「たったいまトークルームごと削除したぞ」
「はっ!? 何してくれてんのよアンタ!?」
「そうよ! 元カノとの思い出は永久保存でしょ!?」
二人は血走らせた目を剥いて、俺の胸ぐらをつかんできた。
「今朝自動バックアップされたばっかだからな。今、復元したから戻ったぞ、お前らの画像以外な」
俺はジト目を返してやる。
二人は売らしめげな目線で睨み上げてくるが俺は屈しない。
テロリストには屈しないのが国際ルールなら、エロテロリストにも屈しない。それが俺の流儀だ。
男子たちが、もったいない、と肩を落とした。
山之内は床に寝転がった。汚いぞ。
そして歩美が恐る恐る手を上げた。
「あのぉ、そろそろデザートどうするか決めたほうが」
「パフェ!」
「抹茶寒天!」
歩美のおかげでなんとか軌道修正。
別名、元の木阿弥とも言う。
「いい加減にしろよなお前ら。そんなに喧嘩するんだったら歩美と百合花に決めてもらえよ」
元華は歩美の、叶音は百合花の肩をわしづかんだ。
「ひぃっ!」
「歩美ぃ、貴女は抹茶寒天が食べたい。あたしと架礼斗が最初のデートで食べた思い出の味を食べたい。そうよねぇ?」
「はぃっ、抹茶寒天が食べたいです!」
なんて嫌そうな食欲だろう。
「百合花ぁ、アンタわかってんでしょうねぇ?」
「はっはっ、当然だろう、我が友よ。ワタシはパフェを押すよ。これで2対2、最後の審判は架礼斗に委ねられたというわけだな」
ニヤリ、と百合花は闇取引に成功したマフィア幹部のような悪い顔をした。
こいつ、楽しんでやがる。
鈍器が欲しくなってきた。
こう、ハリセン的な。
「架礼斗、アタシのパフェ食べたいでしょ!? アンタ、フルーツ大好きだもん!」
「架礼斗、抹茶味のお菓子大好きよね!? 抹茶寒天おいしいって言っていたでしょ!?」
叶音に続けて、元華も詰め寄ってくる。
学園が誇る二大美少女に迫られているのに、テンションは下がる一方。
ふりだしに戻るとはこのことだ。
頭痛と胃痛が増すばかりである。
けれど、痛みに耐えかねて天を仰いだのが良かったのだろうか。
ふと、天啓を得た。
――待てよ。
俺は、ビジネスライクに表情を質した。
「俺、最近ヨーグルトムースにはまっているんだよな。フルーツたっぷりの」
二人の顔に激震が走った。
「これなら元華の言う通り上品で軽くて、だけど叶音のお望み通り見た目も綺麗で映えると思うんだがどうだ?」
叶音は机の上に身を乗り出し過ぎて、むしろ俺に体重を預けながら、
「いいわねヨーグルトムース! 綺麗でSNS映えしそう♪ アタシのためにわざわざ考えてくれてありがとう♪」
元華は叶音を押しのけようと肩を押し付けながら、
「流石は架礼斗。気が合うわね。やっぱり食後のデザートは上品で軽くないと。あたしのために配慮してくれてありがとう♪」
そしてまた二人は犬歯を剥いて唸り合った。
ここは闘犬場かな?
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