生待ちください、お嬢様!!

数多未

第1話 七回目

澄み渡った青空、最高級の茶菓子、美しい庭園。そして、小鳥と戯れる麗しいクラーラお嬢様─。午後の茶会は、それはもう滞りなく進行していた。最近は働き詰めだったから、この一時の平穏を満喫…

─ドサッ─

「お嬢様ああああああああ!?!?」

ルイス・ヴァン・グランテ(26)、そろそろ心労死しそうです…。

「…お嬢様、これで何度目ですか」

「え〜と…七? 」

「お嬢様!!!!」

「う〜…ごめん!」

「…なぜ、死んでしまったのですか」

「バ、バルコニーから、落ちて…」

(……まずい、ため息が出そうだ。お嬢様の前なのに…)

「も、もう絶対"死に戻り"使わないから!…怒ってる?」

「怒ってないとでも?」

「う"…」

私の職場であるイモーティル侯爵家は『ネコの家門』と呼ばれている。

由来は単純。家門異能『死に戻り』を代々継承しているからだ。猫には九つの命があるというが…だとすればお嬢様の命はあと二つということになる。だが、先々代は八回目で命を落としているし、なんの保証にもならない。

「…ごめんね。いつも驚かせて」

「そこじゃないのですが…急に倒れられては驚きもしますよ。まぁ、その現象がお嬢様が異能を使ったとわかる唯一の方法なので、なくては困りますが…」

(……ああ、まただ)

平静を装って喋っているが、腹の中は煮えたぎるような憎悪で満たされている。これは、勝手に死んで異能を使ったお嬢様に向けたものではない。お嬢様の死を止められなかった自分への憎悪だ。今すぐ首を刎ね飛ばして欲しいものだが、そうなればお嬢様にお仕えできなくなってしまう。まだ、だめだ。

「このことは侯爵様に報告させていただきますからね」

「え」

「えじゃありません。あなた死んだんですよ?わかってるんですか」

「…ごめんなさい」

「午後の乗馬の授業、少し開始を遅らせていただきましょう。この時間帯なら、侯爵様もいらっしゃるはずですから」

「わかった…」


「え?また使っちゃったの?ダメじゃないかクラーラ〜」

(軽っ…)

侯爵様は、結構考えなしなところがある。先代が生前に爵位継承者として指名したのは侯爵様の兄シャルル・アーサー・フォン・イモーティル様であった。しかし先代の死後シャルル様が急死し、今までどうせ爵位を継承しないからと遊び呆けていた現侯爵様が侯爵の座に就いてしまったわけだ。

「ごめんなさい、お父様…」

「まぁまぁ、そんなに重く考えることないよ。あと二回も残っているから」

(あと二回"しか"ないんですよ、侯爵様…)

このペースだとあっという間に異能を使い切ってしまう。その前に、お嬢様の度が過ぎたおっちょこちょいは直さなければ…。


「本日も一日お疲れ様でした。ごゆっくりお休みください」

「うん、ありがとう」

部屋の扉を閉めようとすると、お嬢様は静かにその手を諌めた。周りをキョロキョロ見回している…挙動不審ですよお嬢様。

「…ねぇ、ちょっと耳を貸してくれない?」

「?はい」

私が少し屈むと、お嬢様は手を私の耳に添えた。

「…一緒に国外逃亡しない?」

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