「濡れた影」

人一

「濡れた影」

「ねぇ、知ってる?通学路にあるあそこの交差点、午前4時44分44秒きっかりに傘を開くと血の雨が降るんだって!」

「へ~なにそれ。新しい都市伝説でも考えたの?」

「違うって!」

「まあ、あんたオカ研だし……ほどほどにしときなよ?」

「だから違うって!妄想じゃないんだって!ほら見てよ、この掲示板のレスの多さを!」

「ネット掲示板って、これまた……

でも確かに、あそこの交差点だし実際にやって血の雨を見れたって人も多いみたいだね。」

「でしょ?

でさ、これやってみない?」

「え?嫌だけど。怖いし朝早いの嫌だし。」

「えっ!?」

「何その『まさか断られるとは思ってませんでした。』みたいなリアクションは。

あなた1人で行って新聞のネタにすればいいじゃない」

「え~そこをなんとか~

私との仲に免じて、ね?ねっ?ねっ?

今度駅前のカフェ奢るからさ~お願い~」

「……はぁ、全くしょうがないわね。

カフェ2回で手を打ってあげるわ。」

「ほんと!ありがとう~

じゃ、明日の3時私の家の前に集合ね!

あ、午前3時だからね!傘も持ってきてね!」

「あっ、ちょっと!

……ああ行っちゃった。

はぁ、無理やりなんだから。」


翌日3時、私は約束通りあの子の家の前にやってきた。

太陽もまだ眠っている時間、雲一つない空に浮かぶ月が爛々と世界を照らしていた。

「ごめん!ごめん!待った?」

「いや、ちょうど来たところ。」

「そうなの?よかった。じゃあ現場に向かいましょ。」

夏の不快さも消え、遠くから冬の足音が聞こえ始めている今日この頃。

夜の散歩にはうってつけの環境だ。

都市伝説の検証はどうなんだろうか。

少し歩いて交差点にやってきた。

「ここだね。……じゃあ、もう少し待とうか。」

とりとめのない話をすること数分、その時間目前となった。


「4時44分39、40、41、42……今だ!」

――バサッ!

時間きっかりに傘を開けた。

街灯に照らされる中、固唾を呑んで様子を伺う。

「……」

「……ねぇこれ、」

――パタッ

「あっ!」

たった一滴の雨粒を呼び水に、雨足は徐々に強くなる。

あっという間に傘がないと困るレベルの雨になった。


手に取った雨水は、赤黒く嫌にどろりとしており辺りは気分が悪くなるほど血と臭いで満ちていた。

「ふふ!ねぇすごいよ!」

「あっちょっと!こんなの浴びるのやめなさいよ!」

「いいじゃん、いいじゃん。ふふふ!」

ものの数分で雨は上がった。

生ぬるい風が血の臭いをゆっくり吹き飛ばしてゆく。

「……」

「嫌な臭い……怖かったけど本当にあるんだ、こんなこと。

じゃあもう帰ろうよ。」

「…………あ、」

友人は傘を地面に向けて、腕をダラりと伸ばしている。

「ん?どうしたの?」

「……あ、あか、赤、赤、赫、赤、紅……赤色に……呼ばれてる、」

「ちょっと!急にどうしたの?」

友人の様子がおかしくなった。

傘をさしたまま、虚ろな目をしてフラフラと歩き始めた。

「ちょっと……って、え!?」

突然歩く友人が消えた。

フッと瞬間移動でもしたかのように唐突に消えた。


友人が消えた場所に駆け寄り見ると、赤い水溜まりがあった。

凪いだ水面に鏡のように景色が反射している。

けれどその水鏡に私は写っておらず、かわりに友人が向こう側にいた。

「ちょっと!ねぇ!聞こえるの!?」

パシャパシャと水面を叩くが、こちらの声は届かず友人は再びフラフラと歩き出した。

なんとか通り抜けれないかと、水溜まりに手や腕を突っ込むが、あるのは硬い地面の感触だけだった。


まだ太陽は眠っている。

夜闇に溶ける交差点、街灯に照らされる小さな世界の中。

変わらず凪いだ赤い水溜まりの前で、私は力なく座り込んでいた。

――パタッ

「……え?雨?」

雨粒が1つ落ちてきた。

月はいつの間にか暗い雲に多い隠されていた。

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「濡れた影」 人一 @hitoHito93

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