第6話 積み重ねの形
――第2章「ダメスキルの正体」開幕
迷宮に入るのは、今日で三日目だった。
朝、街が動き出す前に宿を出る。
夕方には必ず戻る。
それだけを、決めている。
「……十分だ」
深追いはしない。
一体倒したら引く。
二体なら撤退。
基準を作ったことで、迷いが減った。
最下層の地形は、もう頭に入っている。
分岐。
曲がり角。
魔獣の出やすい場所。
《空間把握(狭)》を、無駄なく使う。
常時発動はしない。
必要な瞬間だけ。
それだけで、消耗は目に見えて減った。
魔獣が現れる。
(来る)
《遅延感知》が、数秒遅れで反応する。
それは警告ではない。
確認だ。
動きは、前と同じ。
迷宮は変わらない。
《微調整》。
踏み込み。
角度。
短剣が、無駄なく通る。
一体。
二体。
それ以上は、追わない。
「……今日は、ここまで」
撤退の判断が、早くなった。
それは臆病さではない。
効率だ。
ギルドに戻ると、報告は淡々と処理される。
受付嬢の反応も、初日ほど驚かなくなった。
「今日も、生還ですね」
「はい」
それだけ。
だが、素材の質は少しずつ上がっている。
数は少ないが、安定している。
《蓄積変換》の感覚も、変わってきた。
溜まる速度が、わずかに速い。
(失敗が、減ってる)
無駄な動き。
無理な攻め。
それらが減るほど、内部に何かが残る。
夜、宿の部屋で短剣を振る。
《微調整》を、自分に使う。
軌道。
重心。
――ズレが、少ない。
「……慣れ、か」
スキルが強くなったわけじゃない。
自分が、使い方を覚えただけだ。
それでも、確実に違う。
迷宮での行動が、
「生き残るため」から「無駄なく進むため」に変わっていた。
翌朝。
ギルドの掲示板の前で、視線を感じる。
「……あいつ、また来てるぞ」
「最下位なのに、毎日潜ってる」
噂は、小さい。
だが、消えない。
クロウは気にしなかった。
評価は、後からついてくる。
今は――
(ダメスキルの、使い道)
それを探す方が、ずっと重要だ。
最弱判定の冒険者は、
連日の迷宮攻略で、
静かに“型”を作り始めていた。
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