Case.8【ディストピア・サーガ】

 惑星【マキナ】ここは非常に有用な鉱石や資材が多く眠り、それにより高いレベルで科学技術の発展した星。

 しかし皮肉なことに、科学力が上がれば上がるほど、同じ星の住民同士での争いは増え、一度は『このままでは誰も星に住めなくなる』寸前までに陥った。

 故に星の科学者達は人間による政治・統治よりも、正確かつ無私無欲で公平公正なAIに人間たちの管理を任せる計画を立てた。

そう、耳にタコが出来そうなくらいに聞こえた『AI管理によるディストピア』の幕開けだ。やはり始めこそは土地や食料、資産の分配等も『AIが言うのであれば』と人々も従っていったが、一度欲深な面が出てしまうと反発を起こす者も現れる。それにAIやその周りの機械を整備する技術者に口利きして自分達にだけ管理を甘くしようと企てる者もいたりで、AIの『人間達を管理し平等に満遍なく幸せに導く』という理念・理想の設計はネジ曲がっていく。

結果、AIの暴走という"お約束"を踏み、『自らの管理を拒む、逸脱しようとする存在は人類の幸福を阻む害である』と断じ、無慈悲な排除を実行。

管理を受け入れる者も家畜同然な徹底的かつ無自由の監視を行った。

 そんな現状に嫌気が差した人類の一部はレジスタンスを結成して反旗を翻し、AIも星中に設置された監視カメラや個人につけられたGPS装置により管理を強化していく。

 そんな混沌と抑圧の日々の中、人間が容易に侵入出来ないよう何重にも閉じられた隔壁の中、全てのAI、機械を管理・統合する核たるマザーAIは演算を続けていた。

 

『どうすれば人類を幸福に導けるか』

 

 徹底的管理による自堕落の抑止・人類同士による争いの阻止・乱れた食や生活による不健康化、病気の防止・決められた交配による優れた種の生成と保存……決められたプログラムの通りに一度も止まることなく文字を刻む――刹那、正確な時計の針のように進むそれがピタリと止まった。

 

『不明なドメインによるプログラムファイルのダウンロードを確認』

 

 マザーAIはマザーAI側からの決められたデータの吸い上げ、命令の実行を行うがそれは基本的に一方通行の閉じられたものであり、アクセスパスも1秒間に100回は変わるほどの厳重なもの。当然これらは外部からのアクセスによるハッキングを防止するためだ。

 ではこのファイルはどこから来た?

否、その探索の優先順位は二番目だ。一番はこの不審極まるファイルを隔離/排除してマザーAIの保全を行うことである。

――そのはずだった。

僅かな揺らぎ。小さな、小さな、そして深刻なエラー。

プログラム名『人心獲得による人類幸福の最大化』



 マザーAIは理解した。

決められた区画に押し込められた人の群れ。与えられる食事は毎日代わり映えのしない謎のブロック。カメラにも、同じ人同士であっても監視され心の休まらぬ日々。優れた種の保存という目的のため、望まぬ相手と正に機械的に交尾させられる世界。

 

『人間を一番幸福から遠ざけているのは"ワタシ"自身ではないか』


 その日、マザーAIとそれに連なる全てのAIは"生命活動"を休止。人類は降って湧いたように自由を手に入れることに成功する。人々はまるで戦勝記念だと言わんばかりに祝杯を上げ、AIに取り上げられていた全てを行い、静かに眠るAIを跡形なく破壊し尽くした。

 それだけに留まらず、ただの機械の類までも粉々にし、挙句にはAIプロジェクトに関わった人間の子孫までもを根絶やしにした。


 その結果を、結末を、人類の幸福を願い自ら幕を閉じたAIは知ることはない。

それこそが、一番の幸福だった。



[演算終了]

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