記憶の隅のタリスカ
瓦屋あやの
第1話 展望
東京に来て5年が過ぎた。初めは覚える仕事がどれも楽しく新鮮で、有意義な毎日を送っていたように思う。自分は人の役に立っているのだとやる気に満ちていたはずだ。しかし、2年、3年と時が過ぎる中で新鮮さは消え失せ、ただ同じことを繰り返して生きている。目標も生き甲斐もない、朝出勤しては仕事をこなし夜帰宅後に食事を済ませて睡眠をとる、そんな日々の繰り返しだ。どのようなプロジェクトを成し遂げても達成感を感じられないし、趣味などない私は休日も漫然と過ごしている。意味のない時間が泉のように湧き出ては溢れ、淀みの中へと消えていく。このままでいいわけがない、とは思うが何をどうしていいかわからない。自分から行動するのが怖い。そんな年齢にもさしかかっていた。ただ、わからないのだ。自分が今どこに立っているのかもわからない。何をしてどうなれば満足するのか、自分というものがわからなくなっていた。
意欲のない若者と言ってしまえばそこまでなのだが、昔はそうではなかった。学生時代打ち込んだ部活動も、バイトも、勉強も、全て自発的に取り組んでいたしやっていく中で意義を見つけられた。少なくとも、目的を持って行動していた。齢28にして悟る。私は、自分でそうしたいと願ったことにしか意欲を向けられないらしい。そうなった今、向こう50年は続くであろう人生に暗雲が立ち込める。希望のない50年をどう生きていくのか、考えても答えは出ない。
しかし、本当にそうだろうか。部活動はまだしも、好きではなかったバイトや勉強でさえ本気で取り組めたはずなのになぜ今私はここまで虚無感に囚われている。なにか原因があるはずだ。そう、今の私を生み出したきっかけ。生きる気力を失ったきっかけが、あるはずだ。過去に思いを巡らせる。事象、結末、タイミング、どれを見ても彼女しか考えられないだろう。
記憶の隅のタリスカ 瓦屋あやの @Kawaraya_Ayano
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