ぼくが何者かになろうとした理由
みつば
第1話
誰しも一度は、
「将来、絶対に何者かになれる」
そう信じたことがあるのではないだろうか。
もちろん、僕もその一人だった。
けれど、人は成長するにつれて気づいてしまう。
夢よりも現実の方が、ずっと重く、冷たいということに。
多くの人は、そこで諦める。
理想を胸の奥にしまい込み、現実に折り合いをつけて生きていく。
――だが、僕は違った。
僕には才能がある。
努力さえすれば、必ず何者かになれる。
そう、確信に近い感覚があった。
だから、昔の僕は心の中で決めていた。
もし二十歳になっても何者にもなれていない人生なら――死ぬ。
それくらいの覚悟があれば、きっと自分を追い込めると思っていた。
だが、現実はそんなに甘くない。
十四歳を過ぎたあたりで、
僕は薄々気づいてしまった。
自分が、特別ではないかもしれないということに。
それが、怖かった。
だから僕は、現実から目を逸らした。
「努力さえすれば大丈夫だ」
「まだ本気を出していないだけだ」
そう言い聞かせながら、時間だけが過ぎていく。
気がつけば、十九歳。
そして――
二十歳の誕生日まで、残り一ヶ月を切っていた。
だが僕は、未だに何者にもなれていなかった。
それどころか、高校時代の同級生たちは皆、それぞれやりたいことを見つけ、その夢のために努力していたり、すでに夢を叶えた者さえいる。
――それに比べて、僕は今、何をしているのだろう。
胸を締めつけるような無力感が、日に日に強くなっていく。
僕は結局、「自分は何者かになれる」と信じ続けたまま、大学にも進学しなかった。
自分には才能がある。
ただ、まだそれを発揮できる場所を見つけられていないだけだ。
そう言い聞かせながら、現実から逃げ続けてきた。
だが、このまま何者にもなれず、ただぼんやりと時間を浪費していくくらいなら――。
そのとき、ふと幼少期の自分を思い出した。
「もし、何者にもなれないまま二十歳になっていたら、死のう」
子どもながらに、随分と歪んだことを考えていたものだと、今になって思う。
だが、現実はその約束の時まで、あとわずかに迫っていた。
もう、これ以上「何者かになるために頑張る」気力は残っていない。
それなら――もう、死んでしまってもいいんじゃないか。
そう考えた瞬間、心がふっと軽くなった気がした。
ああ、そうか。
僕はただ、この辛い現実から逃げたかっただけなんだ。
だったら、わざわざ二十歳まで待つ必要もない。
遺書だけを書き連ね、僕は家を出た。
そして、僕は――
真夜中の街を、僕は一人歩いていた。
深夜ということもあり、人の姿も車の音もない。
あまりにも静かで、まるでこの世界に自分しか存在していないのではないかと錯覚してしまうほどだった。
だが、不思議と落ち着いていた。
胸を締めつけていた焦燥や不安は、いつの間にか薄れている。
そんなことを考えながら歩き続け、
やがて、目的の場所へと辿り着いた。
橋の上だった。
柵の向こうを覗けば、下には川が流れている。
思った以上の高さに、思わず身震いする。
それでも、不安はなかった。
なぜこの場所を選んだのかと問われれば、理由はいくつかある。
まず、痛みを伴うことは、正直言って避けたかった。
そして何より――ここは、僕にとって思い出の場所だったからだ。
幼い頃から、辛いことがあるたびに、僕はこの橋へ来ていた。
ここから眺める景色は、不思議と嫌なことを忘れさせてくれた。
だから、最後も――ここがいいと思った。
僕は、ゆっくりと橋の柵に手をかける。
夜風が、頬を撫でる。
その瞬間、胸の奥で何かが揺れた。
それでも、僕は――。
ぼくが何者かになろうとした理由 みつば @mitsuba0916
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