境界線は、夜を越えて ――近づいてしまった二人の、戻れなかった距離

夜浩

00 夜は、答えを出さない

夜は、答えを出さない。

ただ、そこに立っていた俺の判断を、

あとから静かに照らすだけで…。


あの頃の俺は、

冷静だと思っていた。

選ばないことも、

決めないことも、

距離を保つことも、

全部「壊さないため」だと信じていて…。


正しさは、夜ではよく機能する。

踏み込まない優しさも、

見送る判断も、

夜のあいだは、穏やかに見える。


だから、安心していた。

何も始めていない。

だから、何も壊れていない。

そう思えてしまった。


でも今なら、分かる。

夜は、感情を止めてはくれない。

選ばなかった言葉も、

言いかけて飲み込んだ覚悟も、

全部、同じ重さで残っていく。


俺は、

守っているつもりだった。

距離を保っているつもりだった。

でもそれは、

立つ位置を変えないことで、

相手の感情が動かないと

思い込んでいただけで…。


笑顔も、沈黙も、

変わらない時間も、

夜の中で少しずつ積もっていく。


気づいたときには、

もう「元の距離」が

どこだったのかも分からなくなっていた。


それでも、

誰も間違っていない夜はある。

誰も悪くないまま、

関係だけが終わってしまう夜も…。


これは、

選ばなかった恋を

正解として描く話じゃない。


選んで踏み込み、

守ろうとして、

それでも壊してしまった距離の話で…。


夜に立っていた俺が、

何を信じて、何を見落としていたのか。

そして――

彼女が、俺を削らないために選んだ距離を。

今になって、その夜をたどっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る