EXTRA: さゆりと大入道

さゆりは怪異の少年から逃げるように別れてから、あてもなくふらふらしていた。そんなある日、山奥の山道で自分の身長の二倍はある大入道に出会った。


軽く挨拶を交わしてから「酷い目にあったんだよ」と不満をぶちまけた。

大入道は「災難だったな」と笑いながら聞いていたが、『歩く練習をした』というあたりに特に興味を持ったようだった。


それを聞いてさゆりは満面の笑みをこぼした。「びっくりするよ!ものすごく上手いからね!」


ふわりと跳ねて、大入道から十歩ほど離れた場所に立った。


「行くよー」


さゆりが大きく手を振ると、大入道も「おう」と軽く手を振り返した。


さゆりは大きく深呼吸すると一歩二歩と足を進めた。

少し固さが見えたが、無事に大入道の目の前に到着した。


「ふふーん、どう?」


得意げに胸を張って見せた。

しかし、大入道は「すまんが、道を譲ってくれんか?」と笑いかけた。


「へっ?」


さゆりが素っ頓狂な声を上げた。


「歩いていればそういうこともある。さあ、道を譲ってくれ」

にこにこと反応を楽しむように笑っている。


「そうか……そうだね」

意図を理解したようにニヤリと微笑むと、スーッと真横に滑り、静かに道をあけた。


「おい、そんなやつはおらんぞ」

大入道は体を揺らして大きく笑った。


「ええっ!じゃあどうすんの?」


「こうやるんだ」

大入道はさゆりを迂回して歩いて見せた。


「うわー!その手があったか……」

顔に手を当てて大袈裟に悔しがった。


その後、少し話をしていると「人間の祭に姿を見せるのはやめた方がいい」との助言があった。

さゆりは納得いかず、文句を言うと「後ろから子供が走ってきたら、すり抜けてバレてしまうぞ」と危険性を説くものだった。


「あの村じゃあるまいし、そんなことないよ!」

さゆりは強く反論した。

しかし、大入道は静かに言った。


「人間の子供は前も見ずに走る。そういうものだ」


それは、誰を非難するものでもなく、さゆりを案じて優しく諭すものだった。


「そっか――そうだね。

じゃあ、姿を消して楽しむようにするよ。

ありがと、じゃあね」


「おう、元気でな」


挨拶を交わしてさゆりは高く舞い上がると、空中で全身を大きく使って伸びをし、空を見上げて微笑んだ。


村のことで悩んでいた彼女はもういない。

今、さゆりにあるのは――次はどんな楽しいことがあるんだろう、という明るい期待だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る