第3話 死線
「ふっ、はあっ!」
襲いくる怪物を薙ぎ倒していく。ガッと鈍い音が鳴り、怪物の装甲に僕の武器が当たる。やっぱり、武器を持ってきて正解だった。
「ここだっ!」
怪物の攻撃を潜り抜けて、装甲から露呈している赤い宝石のようなところを、刺す。パリンと、ガラスを割ったような音が響き、怪物が低く唸り、行動を停止。その後に、ホログラム特有の光の粒子となって消えていく。が、それを見ている時間はないので、目を逸らし走る。
それを何度も、何度も繰り返す。
すでに、走り始めて4分ほど経っている。ここまで倒してきた怪物はおおよそ20を超えただろう。多分、かなりの掃討数だ。
汗が額を伝い、徐々に息が上がってくる。
基礎体力は小学生の頃からしっかり鍛えてきたはずなのに、やっぱり。実際の戦闘になると力が入って、スタミナを普段より多く消費する。
これは、時間をかけていたら体力不足で動けなくなる。
「急がないと......。」
僕は少し立ち止まって息を整える。
兄なら、こんなところで息を乱したりしなかっただろうか。と、そんな考えを振り払い、また走り出した。
______________
もう少し走った時。先に走って行った、あの男性の声が聞こえてきた。きっと、もうすぐだ。
そう思って、疲れが見え始めた己の体に鞭を打ち、走る。
そうして着いたのは、広い河川敷だった。
「ったあ!なんで通らないんだよ......!」
その男性は、怪物に囲まれながら、必死に素手で殴っては攻撃を避けるを繰り返していた。
その手は血まみれで、幾度も固い装甲に攻撃を試みたことが伺える。
「っふう!」
男性を囲む怪物の足元を、武器を使って一気に掬う。そうして、露呈した弱点である赤い宝石__通称「核」を素早く打ち砕いていった。
「助かった......。あいつが倒れて、どうしようかと思ってたんだよ。」
周囲の怪物を一通り一掃したあと、男性にそう話しかけられる。男性は少し離れた場所を指差し、そう言っていた。そこを見てみると、1人、突っ走って集団戦闘に協力しなかった人が倒れ込んでいた。全身に寒気が走る。
慌てて近寄って、その人の容体を確認する。その人は鋭い剣を片手に倒れ込んでいて、血に染まった背中に、異様な裂傷が走っていた。
「こいつが今まで怪物を一手に引き受けてたんだけどよ、少し前に急に倒れちまって。」
止血と応急処置に動こうとした時、男性にそう言われた。
なにか、おかしい。
今まで遭遇した怪物に、ここまで大きな傷を与えるような爪を持つものはいなかった。
その瞬間。背後に猛烈な殺意を感じ取る。
「______ッ!」
ガンッ!
すぐさま背後を振り返り、眼前まで迫った鋭い爪を武器で素早く薙ぎ払う。
速い___!
今までの怪物とは明らかに違う。異様な気配遮断と、スピード、そして殺傷能力。
「っな、なんだ!」
男性が震えた声で叫ぶ。
「倒れている人を連れて、逃げてください。」
僕はそう言って、ぐっと武器を握りしめる。そして、数メートル先にいる、”人類の脅威“に対して走り出した。
●
鋭い爪が、何度も肌をかする。その度に痛みが走るが、それを気にしている余裕などない。まだ刺されていないだけ、血が多く出ていないだけマシだ。
「っはあ!」
その大きく素早い図体に、攻撃を当てようと試みる。何度も、何度も。
あの男性は、逃げられただろうか。ちゃんと、倒れていた人を連れて行ってくれただろうか。
もはや背後を見る余裕もない。
「っ___。」
くるぶしの辺りに、攻撃が当たる。今までとは比較にならないほど、痛い。地面に足をつけた瞬間に激痛が走る。
だが、今ここで足を止めれば_____死ぬ。
痛みから目を逸らして、敵を見据える。
怪物にも、等級がある。レジスタの隊員にも、「F〜S」の等級があり、Sに近づくほど強いとされる。
そして、怪物の強さの明確な基準となるのが、“死の霧”の濃度と“知性”、そして“異能”の有無である。なかでも知性が1番恐ろしい。それ次第で大きく戦況を左右することもあるのだから。
そして、この怪物には「明確な知性」がある。じゃなきゃ不意打ちなんでできやしない。
そして、今までの強さから鑑みても、こいつの等級は_____
「D」
制定基準によれば、「小さな町が壊滅する」レベル。ここまでくると、レジスタの隊員じゃない限り、生存すらも危ぶまれる。
到底、僕じゃ敵わない。
ただ。ここで絶望し、立ち止まったら、背後で逃げ続けるあの2人が危ない。
「っう!」
鋭い爪、そして牙が、こちらを捉える。
武器で攻撃を弾く。反動で全身に震えが行き渡り、体がすくみそうになる。
それに、血がどくどく出ている。なんとなく、寒い。
「っはあ、ぅ!」
今度は肺が痛い。息が詰まる。
でも、防御しなきゃ。ここで、耐えなきゃ。
ここで耐えられなければ、この先の事なんて何一つ耐えられない。
___翔兄の背中を、追う資格すら失う。
また訪れた攻撃の雨。防ごうと武器を前に出す。
しかし。
バキッ
「...ぁ。」
ついに、折れた。それも、真っ二つに。
その影響で体勢が崩れ、地面に向かって重心が傾く。
怪物の、鋭い爪が迫る。その奥で、怪物が笑ったように見えた。きっと、僕がそう錯覚するほど、そいつには余裕があった。
ビーーーーー!!
強烈な音が鳴り響く。そして、それと同時に。
「そこまで。」
怪物が、何か重力のような力で、目の前で地に伏せる。そして、光の粒子となって途端に消え失せる。
体は途端に地面に投げ出され、僕の目は上空の地図を捉える。
地図の上に表示された、時計。
それはもう0を示していた。
「お疲れ様。見事だったよ。」
僕の耳に、聞き覚えのある声が届く。そして、誰かが僕の顔を覗き込んでいる。
そして、その人は。
同じ待機部屋にいた、黒髪の少年だった。
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