街ブラ
小鳥がさえずる早朝。
目の前には、西洋風の建物が並び、歩道には街路樹が等間隔に植えられている。
今は、街に降りてきたところだった。
まさか、観光目的でこの街を歩く日が来るとは思わなかった。
昨日の夜、桜凛さんにそう言われるまで、想像すらしていなかったのだから。
「ねえねえ、イリムちゃん。明日、葉月といっしょに観光に行かない?」
気が緩んでいたのだと思う。
深く考える前に、「いいですよ」と答えてしまった。
……人と遊びに行く、という経験が、僕にはない。
何を着ればいいのかも、どんな顔をすればいいのかも、分からなかった。
結局、冒険のときに着ている服を選んだ。
動きやすくて、丈夫で、それなりに見た目も整っている。
これ以上、悩む理由もなかった。
集合場所には、まだ誰もいない。
少しだけ落ち着かず、周囲を見回す。
視線のやり場に困って、近くの裏路地へ足を向けた。
あそこには、街に紛れ込んだスライムが時々溜まる。
暇つぶしにはちょうどいい。
――頃合いだろうか。
集合地点へ戻ると、遠くに見覚えのある人影が見えた。
「イリムちゃーん。おはよー」
「おはよう、イリムさん」
桜凛さんと、葉月さんだ。
ちゃんと来てくれた。
その事実に、胸の奥がほんの少しだけ軽くなる。
ただし――一つだけ、想定外がある。
爽やかな笑顔で手を振ってくる、その人物。
どうして、神山がいる。
いやホントなんで?
他の男子もいるのか?と思ったがそのような気配はなく。
えっと。たしかこの前のクラスでの話し合いで僕のことは女子として扱うことになったよね?不本意だけど。
で、“イリム女性論”を人一倍熱く語ってたのがこいつだ。
そのため、傍からもこちらからでもただ女子についてきた奴となるのだ。
神山曰く
「女の子のみで街に行くのはとても、とっても危ない。そのため僕g――」
それ以上は聞かなくてよかったので腹を少しばかり小突いてあげた。
生まれたての子鹿みたいになってるが、僕の中で適当にしてもいい枠に入ったのであまり気にしないでおこう。
この対応には流石に「腹に……」と桜凛たちも神山を少しだけ哀れに思ってしまった。
さて、観光するって話だったけどまずは服屋から回るってことになった。
もともとは最後に行く予定だったけど、
思わぬ運び屋がついてきてくれたからだ。
品数が一番多いときに行きたかったからちょうどよかった。
実のところ、僕自身も新しい服は欲しかった。
今着ているものは、どれも少し大きい。
お下がりのようなものも混じっているし、動けないわけではないが、どうにも落ち着かない。
それに、インナーも同じだ。
前の体に合わせたものだから、今の身長ではさすがに大きすぎる。
前は、160を少し超えていた。
今とは、だいぶ違う。
そのため、服の調達はしておいたほうがいいのだ。
服の調整は生存率にも直結するしね。
――ウニシロ……
なぜだろう、既視感が。
僕達は王都最大級の服屋を訪れていた。
みんなより前に来た勇者が創業したそうだが。
これは明らかに――
……いや、考えるのはやめておこう。
店内は外見よりも広く、
白で統一された壁によって清潔感が出ている。
さて、僕に合う服を探していたのだが……
身長を考えると、必ず子供服に行き着いてしまう。
さすがに、ここに行くのは恥ずかしい。
右往左往していると――
「なにかお困りですか?」
背後から声がした。
いることには気づいていたが、まさか声をかけられるとは思わず、びくっとしてしまう。
「えっと、あれを買おうか迷ってて……」
「わかりました。こちらについてきてくれますか?」
そのまま個室に案内され――
気づけばスポブラを買っていた……
え、いや、違うんだ、違うんだけど……!
どうやら、『あれ』という言葉が誤認されてしまったらしい。
あそこまで話が進んでいたら、断るのは僕には難易度が高すぎた。
結局、店員さんに言われるがまま、その他の物も買ってしまった。
お金的には問題ないけど――僕の倫理が……
――その後は桜凛さんたちと合流。
手に収まっている袋を見て「なに買ったの?」と聞かれたが、
当然、黙秘した。
でも、栗山さんはなんとなく気づいてそうな気配が……
いや、気のせいだ、うん。きっと気のせい。
他にも、カフェとか、ちまたで人気だとかの所を辿ったりした。
その間、神山が変な発言をするたび頭を、ペシぃってしてやった。
正直、前までは、おひさまの下でこんなにも清々しい気持ちになれるなど思いもしなかった。
前は、なにかから逃れるようにゲームにのめり込んでたからな。
人と出かけるなど想像もしてなかった。
このような日々が続けばな……
そのまま、これフラグかもな、と冗談を考えながらみんなと城に戻る。
――なぜこうなった。
僕はパーティーのときに借りた制服を返すべく桜凛さんの部屋に来ていた。
町外れの森で見つけた薬草で洗剤を真似てみたら上手く行ったので、
それを使って洗ってきたのだ。
もちろん、ぶっつけ本番でしたわけじゃないよ。
そんなわけでドアをノックする。
中からは「はいはーい」と、相変わらず気の抜けた返事が返ってくる。
ドアが開くと同時に「イリムちゃーん」と好意を示してくれた。
「えっと、この前借りたものを返しに来ました」
「ああ、制服ね。」
桜凛は少し迷った様子を見せた後こう答えた。
「それあげる。」
「いいのですか?制服って結構高かったような……」
「いいのいいの。それにこれからも制服は必要になってくるでしょ?」
「そうですが――」
「なら決まり。私もそっちのほうが嬉しいし」
なんてやさしいのだろう。
度々桜凛さんが親戚のやさしいお姉ちゃんのように思えてしまう。
――親戚いないけど。
ただ、少しばかりの罪悪感があったためそう言った。いや、言ってしまった。
「ですが、もらってばかりですと悪いので、
なにかできることってありますか?」
そう言った瞬間、彼女の目が鋭く光る。
この瞬間を待っていたと言わんばかりに。
「なら、私の部屋に入ってくれる」
「?、まあわかりました」
そのまま、彼女の部屋に招き入れられる。
彼女の部屋は整理整頓された可愛らしい部屋――ではなく。
白い背景紙が設置されており、その全面にあからさまに“立ってください”と言わんばかりの円形の台座がある。
そして、近くにはスマホを準備した栗山さんの姿が……
瞬時に理解する。
はめられた、っと。
自分からできることはすると言ってしまったので取り消すことはできない。
そのまま、擬似的なファッションショーが開催されたのであった――
――うう、ひどい目にあった。
自分がいったとはいえすでに準備されていた部屋の中……
彼女たちは僕がなんていうかを予想してこのような計画を立てなのだ。
今日服屋さんに行ったのももしかしたら全部……
そう考えると少し身震いが起きそうだった。
何より、『もっと笑顔ー』とか『無邪気な顔でー』とかに完璧以上に返せたとは……
知りたくない才能だ。
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