ハッピーエンドを迎えた映画のエンドロール
@AsuAsaAshita
これから
気がつくと、僕は映画館の座席に座っていた。
いつからここにいるのかはわからない。
ポップコーンもないし、ひそひそ声も聞こえない。
スクリーン上には、物語を終えた映画の温かな余韻だけが残っていた。
その映画の主人公は、昨日も今日も明日も、自らの大切なものを守って守り抜いて、悲劇を起こさず、世界は明日へと進んでいく。
劇的な展開や悲劇的なドラマは起こらずに、どこにでもある幸福なハッピーエンドだった。
そして、エンドロールが流れはじめる。
僕はキャストの名前を見て、目を疑った。
そこに並ぶのは、見覚えのある名前だった。
両親、友だち、同僚、最近何年も会っていない人まで書かれていた。
そうだ。そうだった。
僕は、この映画を知っていた。覚えていた。
これは、僕の人生だった。
そう思ったとき、胸が痛むとも、凪ぐとも呼べぬものに包まれた。
僕は死んだんだ。
なぜ思い出せなかったのかが、思い出せないほどに自然に、当たり前に、それを受け入れることができた。
そのとき、前の列のお客さんが立ち上がって、無言で出口へ消えていった。
別の列の人も、後ろの席の人も同じように、皆、途中で、惜しむ様子もなく、満足げな笑顔で立ち去った。
不思議だったが、たしかに面白みのない映画だ。
やがて客席はほとんどいなくなり、隣に座る女の子だけが残った。
その子は泣いていた。
「どうしたの」と聞こうとした。心配だった。
でも言葉に詰まった。
なぜだか、彼女は僕を見て笑った。
「ありがとう」
それだけ言って、立ち去った。
出口へ立つとき、振り返って深々と頭を下げた。
そのとき、記憶がすべて戻った。
炎や煙に包まれた建物。
崩れ落ちて崩壊する天井。
泣き叫ぶ少女を腕に抱えて、階段を駆け下りた感覚。
僕は消防隊員だった。
あの子は、あのとき助けた子だった。
スクリーンに目を戻す。
エンドロールのあとに、少し映像が流れる。
交通事故から引き上げた男性。
溺れかえっていた少年。
煙の中で、ゆっくり手を引いた年配の女性。
それは全員、座って映画を見ていた人たちだった。
みんな、僕が助けた人たちだった。
スクリーンが暗転する。
もうすぐ終わる、僕の映画が。
しかし、悔いがないと言うと嘘になる。
それでも、この映画はハッピーエンドだと言えると思った。
そして最後に、白い文字が浮かんだ。
続編制作決定
まだ照明は点かない。
非常口の灯りがともる。
後ろを向くと、出口が開いている。
僕は、まだ席に座れている。
この映画が終わったのか、
それとも、次の物語が始まるのか。
それは、まだわからなかった。
ハッピーエンドを迎えた映画のエンドロール @AsuAsaAshita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます