Guns For Hands

うたかた

1

               2025年6月30日


     被害者事情聴取書


1事件名  B大学F校銃乱射事件

2場 所  B大学F校1号館

3日 時  2025年6月30日(月)

      12:10~14:15

4死者数  12名

5負傷者   9名

6対象者  ジェイク・ハリソン(20歳/男)

7内 容  別添のとおり。生存した

      ジェイクからの聞き取り


                  以 上


******

 何回、同じ質問をするんだ。さっきの刑事さんに答えたろ! 俺はジェイク、2005年2月7日生まれだ。さっさと帰してくれないかな? とても疲れているんだよ。家でシャワーを浴びて横になりたいんだ、眠れないだろうけど。

 ……分かった、これが最後なんだな。じゃあ見たことを全て話すよ。


 まず大講堂で銃声が鳴ったのは、2時限目の終わりだから12時10分で間違いない。

 ダンッ! って音の後に天井から粉が落ちてきた。あそこは階段教室で、天井材が落ちてきたのは前列。だから、後ろにいた俺には発砲者の姿がはっきりと見えるはずだったんだ。だが、まるで見えなかった。なぜなら皆が一斉に立ちあがって逃げだす、阿鼻叫喚の騒ぎだったから。

 酷いもんだったよ。誰かが階段で転んでも、舌打ちして踏み越えていくほどに。

 隣を走っていた親友のアシュトンは背中を撃たれた。カシュッ、って炸裂音がしたから間違いない。前向きに倒れていったけど、あと少し弾道がずれていたらと思うとぞっとする。だって俺がああなっていたかもしれないから。しかも、生と死を分けた距離がたったの1フィートなんだ。


 教員の控室に逃げ込んだのは俺とデボラ,ゾーイの3人だ。中に入ってすぐに鍵をかけた。

 小さい部屋に身を隠せばやりすごせるって思ってさ。本当は俺一人のつもりだったけど、二人ついてきちゃった。しかも女二人だ。俺も腕っぷしが強いというわけじゃない、ただの太ったナードだし。ここに犯人が来たらお手上げだろう。

 でも狙い通り。銃声と悲鳴、泣き声は遠ざかっていった。後はあんたたち、警察がくるまでやり過ごせばいい。部屋の後ろに縮こまって、3人で震えていた。

 そこにノックの音と声が聞こえてきたんだ。


「助けてくれ。扉を開けてくれ。奴らはまた戻ってくる」


 チャールズの声だった。俺は強張った体が、ほどけていくように感じた。彼がいたら心強い。背が高く体格もいいし、頭も切れる男だ。教授に臆さず鋭い質問をぶつけるクレバーな男。女子は崇拝しているし、男からだって受けがいい。俺はすぐに鍵を開けようと、扉に近寄る。

 でもサムターンを回そうとする手を、デボラが止めてきたんだ。発狂したかのように「やめてやめて」と叫ぶ。俺はいつも静かな彼女の大声に驚き、固まってしまう。


 ゾーイがそのデボラを後ろから取り押さえた。

「何やってんのよ、この豚!」

 どうみても華奢なゾーイが、大柄なデボラを捕まえるのなんて不思議だが、気力の違いなのか。デボラは身動きできない。


 しかし一度行動を停止して、冷静になった俺は思った。(もし──チャールズが犯人だったら?)


 いや、そんな訳はあるはずがない。顔を左右に揺らす。銃をぶっぱなすなんて、カースト最下層の住人が起こすものだ。大学で苛めに遭っている奴や、思想が変わっている者なんかが。

「さっさと開けなさいよ、チャールズが死んだらどう責任取るのよ!」

 ゾーイの金切り声に後押しされて、俺はサムターンを捻った。

 OPENの方向へ。


 そして、ゾーイと俺は凍りついた。


 だって扉を開けてあらわれたのは、確かにチャールズだったけど、整った顔が血まみれだったから。高い鼻梁から血がしたたるほど。まるで真っ赤なスイカのようだった。

 しかも右手に、映画でしか見たことない長い銃を抱えていた。部屋の無機質なLEDライトのしたで黒光りしている……。

 後ずさる俺たちを前に、彼は後ろ手で扉の鍵をしめる。カチャン。静寂で満ちた部屋に冷たい金属音が響く。

 俺とゾーイを無視したチャールズは、デボラに近寄り彼女の腹を優しくなでる。そして、口を開いた。


「頼むから僕らのベビーを産まないでくれよ……。そんなことをしたら、二人の将来は無茶苦茶になっちゃうんだから」

「……嫌よ。私は産むわ」


 信じられるかい? 俺たちはチャールズとデボラの痴話喧嘩に巻き込まれたんだよ。

 この地獄のような銃乱射事件は、苛めへの復讐心で起きたんじゃない。高度な思想の末でもない。ただ無計画にセックスして、予期できない事態に優等生がノイローゼになったってだけさ。


 あとは知っているだろ、3人とも撃たれて生き残ったのは俺だけ。俺は腹をかすった弾丸で失神したから、死んだと思われたんだな。カースト頂上の人間は、下層にいる俺の命なんて確認するまでもないんだろう。

 同じく床に横たわっているゾーイの目から、生気が抜けていくのは見えた。それだけは覚えている。でも後の記憶はない。だから、俺の話はこれで終わりだ。


 それじゃ、帰っていいんだね? 刑事さんもお疲れ。助けてくれて感謝している。


 そういえば……刑事さん21pilotsっていうバンドを知っているかい? オハイオ州で結成した二人組のバンドさ。オルタナティブロック&ヒップホップって感じかな。曲によってウクレレも混じったりするけど。

 彼らに『Guns For Hands』って曲があるんだ。ピアノと温かいテクノ音で始まる美しい曲でね。でも、サビの部分。そこで叩きつけるドラムと一緒に、ボーカルが叫ぶんだよ!

『僕は眠ろうとしている、頑張って。眠ろうとしている。でも眠れない。君たち皆が銃を手に持っているから』

 彼は何度も何度も叫ぶ。頭を上下に振りながら。『眠れない、眠れないんだ』って。


 分かるかい?──あれが銃社会を生きる、俺たち大学生の悲鳴だよ。



〈 了 〉

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