第11話「勇者の流儀」
光が収まると、そこには静寂だけが残されていた。
巨大なヒュドラの体は跡形もなく消滅し、黒い灰となって降り積もっている。
ドームの天井には大きな亀裂が入っているが、崩落は免れている。レオンの見事な力加減だった。
中央の地面には、バスケットボールほどの大きさがある、虹色に輝く魔石と、ひしゃげた金属製の制御装置が転がっていた。
「ふぅ……。久しぶりに本気出したな」
レオンは着地し、剣を鞘に納めた。
肩を回して息を整える。魔力の消耗は激しいが、心地よい疲労感だ。
『社長! 反応消失! 完全沈黙を確認しました!』
インカムの向こうで、舞が歓声を上げているのが聞こえる。
同時に、ドローンカメラを通して、この一部始終を見ていた世界中の人々が熱狂の渦に巻き込まれていた。
『すげえええええ!』
『なんだ今の光!? 衛星兵器か?』
『勇者だ……本当に勇者がいたんだ……』
『ギガント社のロゴが入った部品映ったぞ! スクショ撮った!』
レオンは落ちていた制御装置を拾い上げ、カメラに向かって突き出した。
「見ろ。これが今回の事故の原因だ。モンスターの体内に埋め込まれていた制御チップ。ここにははっきりと『ギガント・インダストリー』の刻印がある」
レオンの声は、怒りではなく、静かな告発として響いた。
「金儲けのために命を弄び、失敗したら蓋をして見捨てる。それがお前らのやり方か? 俺たちの流儀(やりかた)は違う」
レオンは装置を握り潰した。
「命も、資源も、一つも無駄にはしない。それがプロの仕事だ」
その時、ダンジョンの空間が揺らぎ始めた。
主を失ったことで、封鎖されていた出口が再び開こうとしているのだ。
「帰るぞ。みんなが待ってる」
レオンは虹色の魔石をポケットに入れ、来た道を引き返した。
広場で待っていた生存者たちは、戻ってきたレオンを見て涙を流して喜んだ。
「ありがとう……本当にありがとう……!」
「あんたは命の恩人だ!」
レオンは照れくさそうに鼻をこすった。
「礼は、無事に家に帰ってから家族に言ってくれ。俺は仕事をしただけだ」
脱出はスムーズだった。
モンスターたちは主の消滅により戦意を喪失し、逃げ惑うばかり。
一行が地上の光の中に姿を現した時、そこには割れんばかりの拍手と歓声が待っていた。
「出てきたぞ! 全員無事だ!」
「奇跡だ……!」
家族たちが駆け寄り、抱き合う姿があちこちで見られる。
舞も、ボロボロになったレオンに駆け寄ってきた。
「社長! お疲れ様です! すごかったです! もう、最高です!」
普段は冷静な舞が、興奮してレオンの手を握りしめている。その目には涙が浮かんでいた。
「ああ、疲れた。腹減ったな」
「はい! 今日は焼肉行きましょう! 一番高いコースで!」
「お、いいな。タン塩10人前頼むぞ」
二人が笑い合っていると、警察とマスコミ、そして顔面蒼白のギガント社役員たちが押し寄せてきた。
「一ノ瀬さん、レオンさん! 今の映像についてコメントを!」
「ギガント社の関与について証拠はあるんですか!?」
フラッシュの嵐。
レオンは面倒くさそうに顔をしかめたが、舞が一歩前に出て、毅然とした態度でマイクに向かった。
「詳細は後日、記者会見にてご説明します。ただ一つ言えるのは、弊社『ブレイブ・ソリューション』は、いかなる困難なダンジョンも、クリーンかつ安全に解決することを約束するということです。ダンジョンでお困りの際は、ぜひ弊社へご連絡ください!」
ちゃっかり宣伝を挟む舞に、レオンは苦笑した。
この逞しさこそが、彼女の最大の武器かもしれない。
その日のニュースは、レオンたちの英雄的活躍と、ギガント社の不正疑惑一色となった。
株価は大暴落し、警察の捜査が入ることが決定した。
一方で、ブレイブ・ソリューションには、サーバーがダウンするほどの問い合わせと、出資の申し出が殺到していた。
かつての勇者は、剣をビジネスツールに持ち替え、現代社会という新たな戦場で、確固たる勝利を収めたのだった。
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