@karatachi23

未熟な異星人たちの成長を促し、惑星全体の進歩を手伝うために宇宙人は地球にやってきた。


逆境を乗り越えることは魂の成長に必然で、苦しみを経験してこそ知的生命体の心は強くなる。少なくともこの宇宙人の出身惑星ではそうだったし、同じ惑星出身者は魂の同質性が高いのが一般的。宇宙人自身も例外ではなかった。


それに彼者が知る限り、宇宙における即時反映の法則はいかなる星にも共通する。どのような場所でも苦しむ者はすぐに報われ、苦痛が長引くことは滅多にない。生命体が肉体を伴う場所では体の状態が悪くならないうちに。肉体を伴わず魂のみが存在する場所では、魂が翳りすり減る前に。


こうして一個体は学びを得て、経験を世界に還元することで誰しもがより幸福になり、世界全体がより大きな成長を遂げられる。努力を求められる度合いは惑星によって差があるが、確実に救われる点だけはどの星にも共通している。地球もきっとそうだろう。


そこで宇宙人は、あらゆる試練をニンゲンたちに与えることにした。そしてすでに渦中にいる者はそこから学びがあるだろうと、あえてそのままにしておいた。


虐待されたりいじめられる者たちは、搾取される苦しみを知ることで他の者に優しくなれるよう。争いに巻き込まれる者は平和の尊さを学ぶよう。貧しく生活が苦しい者たちは、物質世界における豊かさのありがたみを学べるよう。心身を病む者は健康がいかに幸せかを知り、弱きものに寄り添えるよう。そして孤独な者は、ささやかな愛の尊さに気付けるように。


ニンゲンは未開の惑星で変身能力やテレパシーすら持たないらしいが、生命の営みを続けるほどにたくましい。彼者らなら、苦難を乗り越え、より心優しく平和で、強く賢く慈愛に満ちた存在になれる。宇宙人はそう信じていた。


宇宙の感覚でしばらく地球を離れてから様子を見に戻った宇宙人は、ニンゲンたちの様子を見て満足した。


彼者の目論見通り、苦悩や逆境を経験することで多くのニンゲンたちが、より強く、優しく、弱きを助け、平和を求める存在として世界中で活躍していた。


計画は成功した。少しずつではあるが、確かに地球とそこに住まう知的生命体たちは成長している。これからももっと前進していくだろう。


満ち足りた気持ちで喜びに浸っている宇宙人は、黒いもやのようなものがじわじわと彼の周りを取り囲んでいることに気付いていなかった。ようやく異変を察した時には完全に闇に包みこまれていた。


圧倒的な暗さと重さに宇宙人は圧倒された。靄の中は経験したことがないほどの重苦しい闇で、宇宙の果てより暗く、潰れたブラックホールよりも黒々として重かった。


漆黒のもやの中から、誰かのすすり泣きや呻きが聞こえる。高い声、低い声、子どもの声、大人の声。あらゆる苦しみ報われぬ者たちの声は徐々に大きくなり、無数のすすり泣きと呻きに膨れ上がった。


「し、ヤガって」

「ヨケイナコトシヤガッテ」

「ツカ....レタ」

「コロシテ」

「モウイラナイヨォ」

「...マエノセイデ」


幾千もの声が一斉にぐるぐると宇宙人を取り囲み、脳裏に見たこともないあらゆる光景を映し出した。


容赦なく破壊と殺戮を繰り広げる戦争、見逃されては形を変えて連鎖し続ける搾取と虐待、心と身体を蝕むのに国家にすら目を背けられる貧困、全身を管につながれ薬漬けにされても癒えず、例え動けようにも常に心身に苦痛を与える病、そして何をしようとも徒労に終わり、何をもってしても癒されぬ孤独。宇宙人の知っているどの惑星からも想像すらできない惨状だった。


あらゆる苦しみからいつ解放されるかわからず、 生涯にわたって苛まれ続け、あげくの果てにいくら努力しても報われる保証すらない。生きることを望もうにも生きることを許されず、死のうにも死ぬことも許されず、消えることさえできず、眠りから覚める度に新たな絶望の一日が始まる。


「そんな...宇宙の普遍法則から外れた場所だったなんて...」

報われない者たちの慟哭に後悔したが、時すでに遅し。怨嗟の集合体は一気に宇宙人に襲いかかり、宇宙人は魂ごと闇に蹂躙された。

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