クオリア ―異世界だと思ったら、誰かの精神世界だった―

@shikiimage888

第1話 ログイン先が、間違っている

【神サポート】異世界転生へようこそ!


【俺】……は?


【神サポート】あなたは死亡しました。


【俺】ちょっと待て。順序が逆だろ。

   俺、さっきまで会社にいたんだが。


【神サポート】はい。

       死亡理由:過労。


【俺】だと思ったよ。


【神サポート】では、新たな人生として――


【俺】ちょっと待て。

   ここ、どこだ。


【神サポート】異世界です。


【俺】一言で済ませるな。

画面の向こうに、白いノイズみたいな空間が広がっている。

床も壁もないのに、落ちている感じもしない。


夢にしては、妙に頭が冴えていた。


【神管理者】あ、今回の転生者もう送った?

【神サポート】はい、今ちょうど案内を――

【神管理者】スキル配布は?

一瞬、間が空いた。


【神サポート】……。

【俺】……。

【神管理者】あ。

嫌な予感がした。



【神サポート】管理者さんが担当だと思ってました。

【神管理者】俺? 聞いてないけど。

【俺】おい。

軽い沈黙。

その沈黙が、やけに生々しい。



【神管理者】まぁまぁ。

      今からやれば問題ないでしょ。

【俺】人生かかってるんだが。

視界の端が、微かに歪んだ。

まるで誰かが、強く息を吸ったみたいに。



【システム】環境構築を開始します。

【俺】環境?

足元に感覚が戻る。

土の硬さ。

少し湿った空気。


気づけば、俺は街の中に立っていた。


建物はある。道もある。

でも、細部が曖昧だ。

看板の文字が読めない。

窓の奥が、記憶みたいにぼやけている。



【俺】……なあ。

【神サポート】はい。

【俺】この世界、雑じゃない?

返事が来るまで、ほんの一拍。

その間に、空気が変わった。


生ぬるい。

近い。


通りを歩く人間たちが、必要以上に距離を詰めてくる。

視線が絡む。

値踏みするような目。


【俺】ちょっと距離感おかしくない?

【神サポート】精神活動が活発化しています。

【俺】誰のだよ。

答えはなかった。


代わりに、街の色が濃くなる。

肌の露出が多いわけでもないのに、やたらと艶めいて見える。

呼吸の音が、近い。


欲しがる気配。

見られているという感覚。


【俺】……これ、異世界っていうか。

【神サポート】はい。

【俺】誰かの頭の中じゃないか?

今度は、はっきりと沈黙が落ちた。



【システム】環境安定率:63%

【俺】低くない?

遠くで、建物が揺れた。

まるで、感情がぶつかったみたいに。


その瞬間、理解してしまった。


この世界は、

剣と魔法でできていない。


感情だ。

思考だ。

そして――欲望だ。


【俺】なあ。

【神サポート】はい。

【俺】俺、間違った場所にログインしてない?

返事は、最後まで来なかった。


【システム】再構築を開始します。

空が、少しだけ低くなる。


俺はまだ知らない。

この世界の主が誰なのかも、

なぜ俺がここに放り込まれたのかも。


ただ一つだけ、確かなことがあった。


――ここは、誰かの内側だ。


感情と欲望が、

そのまま世界になっている。


【俺】……最悪だな。

それでもログアウトは、できなかった。


【システム】観測を継続します。

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