未完の夢想

ケルン

第1話『売れすぎ韋駄天台風』

1話 『売れすぎ韋駄天台風』






俺の名前は田中大(たなかだい)

自称させて貰うが人気小説家だ




現在

表彰式の真っ最中




時に思うが


拍手というのは、

慣れるとただの騒音になるらしい。







「トゥアヌゥアカドゥウワアァイィ

スゥゥエンスェェェェエエエ――!!」






呼ばれ方がもうおかしいね、うん。


「先生」の語尾に妙な湿度がある。

ありがたみっつーかもう狂信?




ステージに立つ俺は、笑っている。

完璧な角度で。




……完璧すぎる。

腹立つ。


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表彰式は慎ましくも盛大に終わり

ふと壇上の自身の小説を見る




     「神の親孝行」


  累計発行部数1億3千万部突破。




やがて発表される。

アニメ化決定。


最高峰の制作陣が集められる。



放送初回、

エンディングが終わっても誰もチャンネルを変えなかった。



続いて、映画化。



スクリーンに映るあの世界に、

客席は息をするのを忘れる。



エンドロールが流れ終わるまで、

拍手は起きなかった。

——余韻が、許さなかった。





原作は、もはや“本”ではない。

時代を代表する物語として語られる。


そして誰かが言う。



「これはもう、文化だ」

その言葉に、誰も異を唱えなかった。



あらゆる評価も満点だらけ。



・美しい

・忘れられない

・今の時代に必要だった



否定の言葉は、どこにも居場所がなかった。




――気づけば、予定表は白紙を失っていた。



重版の報告、取材依頼、打ち合わせ。

一日が終わる前に、次の日が埋まっていく。


サインを書く手は休まらず、

移動の車内が唯一の静けさになる。


それでも街では、

自分の物語が別の声で語られている。



人気は祝福で、同時に奔流だった。

流れに立ち止まる暇はない。


まさに、【社会現象だ】


.

.

.


「サイン、お願いします!」


手が勝手に動く。

サラッサラで、ヌッチョヌチョだ。

俺の名前なのに、他人の筆跡みたいだ。


(いや売れたいとは思ってたよ?)

けどここまでくると...




授賞式&インタビュー


「苦労された時期は?」



「ええ、まあ、はい」



口が勝手に物語を語る


それっぽい苦労。

それっぽい挫折。

それっぽい覚悟。


全部「それっぽい」


(……俺、こんな上手に

自分を語れた覚え、ないぞ)



沈黙しても、誰も困らない。

沈黙すら脚本どおり。

これは会話じゃない。

もはや再生(リプレイ)だ。


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夜、ホテルに着く。

最上階、

まさに「成功者用」の部屋。



見える夜景は宝石箱

聞こえる喧騒は

遥か目と鼻の下で巻き広がる




何もかもを手に入れた、

それなのに...




「疲れた...じゃがりこ食べたい...」



漏れた独り言が

月明かりに照らされた黒雲と夜の静寂に消えていく...


そのとき





「ああ、カオスやね」



声がした

唐突に前置きもなく


部屋の隅に、人型の影。

影なのに、立体感がある。



大「お前...誰だ?」



「誰に見える?♪」


 言葉を発してきた




「――観測中の夢としては、非常に効率的やねぇ」



大「...夢?...夢........フッ...ハハァ」

俺は笑う。




確かに努力したはずの記憶もないし

言われれば気付く”違和感”が端々にあった




「欲望が最短距離で満たされた結果やね」



影――—後にクロと呼ぶ存在は、

首を傾げる。



「おかしいと思うやろ?自分でも」


「...」


沈黙。

ただ沈黙する。




---


窓に触る。

冷たくない。

現実のフリをしただけの背景。


「居心地は確かにいい」


俺は言う。


「書けない苦しみもない

 評価は保証

 努力はカット

 人生、ダイジェスト版」




ソイツは静かに告げる。


「居たいん、この夢?」



ああ、そうか。


(これは、唯の“夢”じゃないな

 選択肢を一つに絞っただけの

 言わば”檻”だ)




「ああ」



俺は床に落ちていた原稿用紙を拾う。

白紙。

不自然なくらい、白紙。




「俺さ、こんな完成度の話、

 一番書きたくないタイプだったよな」


ペンが走る。



――主人公は、成功している。

――でもそれじゃ、もう何も書けない。



世界が、きしむ。


夜景が歪む。

照明が喘ぐ。




「ええん?崩れるよ?」


大「知るか」



俺は笑う。

今度は、ちゃんと不格好に。




夢を見る自由は、素晴らしい。


でもこれは――

俺が書いたフリをさせられてるだけだ。




ひび割れ。


崩壊。


編集、失敗。



---

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目が...覚める,,,







夢は、完成した瞬間に

作者を必要としなくなる。



どこかで

誰かが見ている気がした

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