白紙の冒険譚・外伝
れいちゃんず
番外編第1話『ギルドマスターの不在』
―某日、冒険者ギルド『ホワイト』
その日は快晴、気温も高く、穏やかな心地のよい日であった。『ホワイト』の位置する王都ガリア地方東部は、いつにも増して賑わいを見せていた。商人の呼ぶ声、馬車の通る音、井戸端会議をしている夫人たち。商業区であるこの地域は、さまざまな形の生活感で溢れかえっていた。
一方、ギルドハウス内では…
「「離しやがれェ!クソがァァァ!!!!」」
――ザインが拘束されていた。
番外編第1話『ギルドマスターの不在』
人の頭よりも太い、大木の幹と根。並大抵の力ではそれらを引きちぎる事などできやしない。そんなモノで、ザインは拘束されている。
【ザイン・グレイル】
銀髪のウルフカットと鋭い目つき、そして何よりも機械化されたその左腕が特徴的な男性。扱う魔法は【闇魔法】。また、戦闘の際には機械の左腕も用いて猛攻を加える。
現在は冒険者ギルド『ホワイト』のメンバーだが、以前に闇組織である『ナハトリヒト』に所属していたことがある。
「…離して欲しかったら先ずは落ち着きなさいよ」
冷めた目で壁に張り付けられているザインを見上げるのは、地面ほど伸びた大きな翠色のツインテールが特徴的な女性。名をミドリ・グローレルと言い、このギルドの最古参冒険者である。彼女は【翠色の付加魔術師】の異名を持つ名の知れた魔術師であり、その異名の通り付加魔術(エンチャント)を得意とする。今現在ザインが壁へ張り付けられているのも、彼女による魔法で巨大化した植物によるものだ。
「俺は落ち着いてるだろ!だからさっさとこの…ッ!このクソったれな雑草を消しやがれェ!」
「やれやれ、どこが落ち着いてると言うんだまったく…」
溜め息混じりにそう吐き捨てたのは、クリス・ブルー。青みのかかった長い髪に他を寄せ付けないクールな雰囲気を纏う、ミドリと同じくギルド最古参勢の魔術師だ。彼は氷結魔法と魔法弾の専門家であり、見た目に反して情熱を秘めた性格をしている。
「あのな、お前が何故縛られているのか…想像できるか?」
騒ぎ立てるザインに対し、クリスは首を振る。
「あぁん?ンなこと分かるわけねェだろうがよ。俺がこんな仕打ちをされるようなマネしたかよ!?あぁん!?」
「そうギャンギャン吠えんな、小型犬が」
「誰が小型犬だコノヤロー!!」
「クリス!焚き付けないでよ!余計に暴れるでしょう!」
「……キュイ?」
ミドリが叫んだその時、不意に足元から鳴き声が聴こえる。
「…あぁごめん、あなたのことじゃないのよ。こっちの"可愛くない方のクリス"に言ったの」
「キュイ!」
愛らしくミドリの足元に頬擦りをする猫ほどの大きさの生き物は、このギルドの看板竜クリス。クリスタルドラゴンの幼体で、まだ幼くドラゴンとしての力は弱いが、人の悪意を見抜くその特性は健在だ。白銀に輝く美しい毛並みに、人懐っこく甘える姿はまさに看板竜。ミドリがお世話の担当をしていることもあり、クリスが最も信頼を寄せるのはミドリである。(ちなみに名前が被っているのはギルドマスターのせいである。)
「「「・・・・・」」」
3人が無言で睨み合う。10秒、15秒…と経たないうちにその沈黙はザインの手によって破られた。
「…なぁ、もういいだろ?腕が痺れてきたんだが」
「そうね、ここはクリスに免じて一旦は解いてあげる」
「俺に感謝しろよな」
「こっちのクリスね」
「キュイ♪」
やはり動物は心を癒してくれる、とこの場に居た全員が思ったことであろう。実際にクリス(幼竜)によって人間の醜い言い合いは鎮静化されたのだ。
スルリ、と木の根が弛み小さく萎んでいく。解放されたザインはその場に膝をつき、首をコリコリと鳴らしながら立ち上がる。
「あぁークソッ…いってぇ…」
「で?お前らは何を知ってんだ?」
ザインは2人の魔術師の目を真っ直ぐに見つめた。事の始まりは遡ること2日前、今日とは対象的に曇天の広がる1日であった。
その日、ギルドには異変があった。新入り魔法使いのセリナ・メルロの姿がなかったのだ。普段ならザインのことを「ばんろー!」と呼び、執拗いくらいに何処へでもついて行く彼女だが、この日に限ってはその姿を誰にも見せていなかった。
「ったく、どこ行きやがったんだあのチビは…」
ザインはイライラを隠す素振りすら見せず、ぶっきらぼうに大股でセリナを捜し回っていた。普段であれば近くに居るだけで鬱陶しい存在だが、突然に居なくなると心配にもなるもの。粗暴で敵の多いザインでさえその例外ではなかった。
――この時。既に、セリナはセリナでなくなっていた。
【天体魔法】
数ある属性魔法の中でも最難関にして最強と謳われる強力な魔法。その本質は星々に願い、その魔力を借り身に降ろす事である。故に、魔力操作や詠唱が大変に難しく、また扱えを誤れば大惨事を引き起こしかねないハイリスクな魔法である。
セリナは学生時代から天体魔法を専攻している。成功率は低いにしても努力家であったこともあり、入団試験を経て冒険者ギルド『ホワイト』へ入団する事に成功した。この時試験官を務めたのがザインであった。以来、セリナはザインのことを「先輩」と慕い付きまとうようになった。
しかしギルドには実力者が揃っている。セリナも上位の魔法使いである事に変わりはないのだが、経験の差か実力不足か、自分の存在意義に疑問を抱いていた。それからというもの、セリナは隠れて1人で特訓をするようになる。天体魔法はその性質上魔力の暴走を引き起こしやすい。セリナ本人もその事は十分に理解していた。そのハズだった。しかし、焦りや劣等感の積もりは人の判断力を狂わせるもの。自分のキャパを遥かに超える魔力量を扱おうとし……彼女は、その魔力を暴走させ、星の重力に飲み込まれてしまった。
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