銀髪のリボンと、青い瞳の約束
南條 綾
銀髪のリボンと、青い瞳の約束
今日は、特別な日だ。朝から胸がざわざわして、どうにも落ち着かない。宿舎の小さな鏡の前で、何度も銀色の髪を梳いてはため息をついた。
長い銀髪は、朝の柔らかな光を浴びると雪みたいに輝いて、ちょっと自慢でもあり、昔はコンプレックスでもあった。田舎の村では「雪女みたい」ってからかわれたりして嫌だったけど、今は……この髪を、アーリアが「綺麗」って言ってくれるから、大好きになった。
ピンクのリボンでゆるくツインテールにまとめて、今日は少し冒険して淡いグレーのワンピースにした。スカート丈は膝上くらいで、動きやすくて可愛いと思った。首元には小さな青い石のペンダント。アーリアが前に「似合うよ」って言ってくれた物だった。
アーリアはあの、魔法学院で一番優秀で、みんなが憧れる人。金色の明るいハニーブロンドの髪を、いつもさらりと下ろしてる。少しウェーブがかかってて、陽に当たると蜂蜜みたいに透き通って見える。瞳は深い青で、冷静で知的な雰囲気なのに、私にだけは柔らかく微笑んでくれてると思う。
出会いは、学院の図書館だった。私が古い魔導書を高い棚から引っ張り出そうとして、バランスを崩して落としちゃったとき。慌てて拾おうとしたら、横からスッと手が伸びてきて、本を受け止めてくれた。
「大丈夫?」
その声が優しくて、顔を上げたらそこにアーリアが立ってた。金髪が少し揺れて、青い瞳が心配そうに私を見ている。
「……ありがとうございます」
声が震えちゃって、顔が熱くなった。それが始まりだった。
それから、図書館で隣に座るようになって、休日に王都の街を一緒に歩くようになって、授業の合間に魔法の話をしたり、本の感想を言い合ったり。そして今日、初めての「デート」だと思いたい。
待ち合わせは、王都中央広場の大きな噴水の前、午後二時。私は三十分以上前に着いてしまって、噴水のふちに座って足をぶらぶらさせながら待っていた。
春の陽射しが暖かくて、花壇の花々が鮮やかに咲き乱れている。子供たちが笑いながら走り回っていて、街は賑やかだ。でも、私の心臓だけはドキドキが止まらなかった。
アーリアはどんな服で来るんだろう。いつも学院の制服姿しか知らないから、プライベートの彼女が全然想像できない。きっと、すごく可愛いんだろうな……。
「アヤ」
後ろから突然声をかけられて、びくっと振り返る。そこに立っていたアーリアは……本当に、息を呑むほど綺麗だった。
白いブラウスに淡い水色のロングスカート。金髪はハーフアップにしてあって、残りの髪が肩に優しくおろしている。耳元には小さなパールのピアス。いつもより柔らかい感じだった。
「ご、ごめん! 待たせた?」
「ううん、私が早すぎただけ。……アーリア…すごく可愛い……」
思わず本音が漏れて、慌てて口を押さえる。アーリアは一瞬目を丸くして、それからくすっと笑った。
「ありがとう。アヤも、そのワンピースすごく似合ってる。銀髪にピンクのリボン、可愛い」
照れて視線を逸らすけど、心の中はもう幸せでいっぱいだった。
「じゃあ、行こうか。今日はどこに行きたい?」
彼女が私の隣に並んで、優しく聞いてくる。
「えっと……アーリアと一緒なら、どこでもいいよ」
本当の本音だった。アーリアは少し困ったような、でも嬉しそうな顔をして微笑んだ。
「じゃあ、まずは街を散歩して、私のお気に入りのカフェに行こう。老舗で、すごく落ち着くところなんだ」
「うん、楽しみ!」
二人で並んで歩き始める。王都の石畳は少しでこぼこで歩きにくいけど、アーリアが自然に私の手を握ってくれたから、安心して歩けた。その手はすごく温かくて、少し震えてるみたいだった。
……もしかして、アーリアも緊張してる?
カフェは広場の奥まった路地にあった。レンガ造りの小さな建物で、入り口に手書きの看板。店内に入ると、甘いお菓子の香りとハーブの香りが混ざって、ほっとする。
「いらっしゃい」
優しそうなおばあさんが迎えてくれる。私たちは窓際の二人席に座った。外には通りを行き交う人たちがよく見えて、なんだか世界に二人だけみたいな気分だった。
「ここ、入学したての頃によく来てたの。一人で本読んだりして」
アーリアがメニューを見ながら教えてくれた。
「へえ……そんな寂しい時期があったんだ」
「うん。王都に出てきたばかりで、人が多くて戸惑ったし、友達もいなくて……」
少し遠い目をするアーリアを見て、胸がぎゅっと締め付けられる。
「でも、今は私がいるよ。これからは、ずっと一緒にいよう」
思わず言ったら、アーリアが顔を上げて、私をじっと見て……それから、優しく微笑んだ。
「……ありがとう、アヤ」
その瞳が、少し潤んで見えた気がした。
注文したのはアーリアおすすめのローズヒップティーと、フルーツたっぷりのタルト。ゆっくりお茶を飲みながら、学院のこと、魔法のこと、好きな本のこと、なんでもない話をたくさんした。時間があっという間に過ぎていく。
「ねえ、アヤ」
突然アーリアが少し真剣な声で言った。
「なに?」
「今日、誘ってくれてありがとう。私……実は朝からずっと緊張してた」
「え、私も! 昨夜ほとんど眠れなかったもん!」
二人で顔を見合わせて、くすくす笑った。
カフェを出た後は、街の雑貨屋を何軒も回った。小さなアクセサリー屋で、私が青い石のヘアピンを見つめてたら、こっそり買ってくれた。
「これ、アヤの銀髪に絶対似合うと思って」
プレゼントされて、びっくりして、それからすごく嬉しくて。
「ありがとう……大事にするね」
アーリアの金髪を指で少し触りながら、私も小さなリボンのブローチをプレゼントした。
「これ、…金髪に似合うかなって」
アーリアがぱっと顔を明るくして、すぐにブラウスに付けてくれた。
夕方近くになって、川沿いの遊歩道を歩いた。夕陽が水面に反射して、きらきら光っている。
「今日は、ほんとに楽しかった」
アーリアが静かに言った。
「うん、私も。アーリアと過ごす時間、夢みたい」
少し黙って歩いて、それから立ち止まった。
「アヤ」
「ん?」
振り返ると、アーリアが真っ直ぐ私を見てた。
「私……アヤのことが、好きです。大好き」
突然の告白に、頭が真っ白になった。
「え……えっと……」
言葉が出てこなくて、ただアーリアの金髪が夕陽に輝くのを見つめる。彼女は、少し不安そうに目を伏せた。
「ごめん、急に……嫌だったら……」
「違う! 私も……私も、アーリアのことが大好きだよ! 図書館で初めて会った時から、ずっと……」
やっと絞り出した言葉に、アーリアの顔がぱっと明るくなった。
「ほんと……?」
「うん、ほんとに。アーリアの金髪が綺麗だなって思ったのが最初で、それから笑顔とか、声とか、全部好きになって……」
アーリアが、そっと私の手を両手で包んだ。
「嬉しい……私も、アヤの銀髪に一目惚れしたみたいに、気になってた」
二人で照れくさそうに笑って、それから手を強く握り合った。夕陽が、私たちを優しくオレンジに染めていた。
その後も手を繋いだまま、ゆっくり宿舎まで戻った。門の前で別れ際、アーリアが名残惜しそうに言った。
「また、すぐに会おうね」
「うん、約束。今度は私が誘うね」
アーリアがにこっと笑って、それから……私の頬に、そっと唇を寄せた。温かくて、柔らかくて、びっくりして固まっちゃった。
「じゃあ、おやすみ」
恥ずかしそうに微笑んで、アーリアは宿舎の中へ消えていった。
私はその場に立ち尽くして、頬に残る感触を何度も確かめた。銀髪が風に揺れて、夕陽の残光を浴びている。今日は、ほんとに夢のような一日だった。
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銀髪のリボンと、青い瞳の約束 南條 綾 @Aya_Nanjo
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