惡夢
青蛸
惡夢
―目が覚めた。
体を起こして深呼吸する。
喉が乾いた。
僕は水を求めてリビングに行った。
早朝、まだ日も出てない時間帯であるのにそこにはいつもの母の姿があった。
静かに台所で立っている。
母は僕に気が付いて声を掛けた。
「あら、どうしたの?」
「喉が乾いて」
母は「そう」とだけ言って、コップに水を注いでくれた。
母から水を受け取り、喉を潤した。
何故か少し酸っぱい味がした気がした。
日が昇ると「朝食ができたよ」と母が言う。
ダイニングテーブルには、塩むすびが二つ置いてあった。
僕はそれにかぶりつく。
僕は一つを飲み込んで二つ目に手を伸ばす。
すると、母がパシンと僕の手を叩いた。
「あなたは母にもう一つを分け与えないのですね」
と母は言う。
「一つじゃ足りないよ」
僕はそう言って、もう一つの塩むすびにかぶりついた。
母は少し悲しそうな顔をして、台所に戻った。
それ以上、母は何も言わなかった。
母とは一言も話すことなく家を出た。
しばらく歩いていると、駅に人集りができているのが見えた。
聞き耳を立ててみると「人身事故らしいよ」と、声が聞こえてきた。
改札口の前から百メートル以上もの長蛇の列があり、僕は遅延証明書を貰うことを諦めた。
もちろん電車の車両はパンパンだった。
僕は無理やり押し込まれた隙間で、肩や背中を押し付けられ、苛立ちが募った。
人々の顔が近すぎて、視界の端に映る目が無表情で冷たく感じられる。
呼吸が少し苦しくなる。
腹が立つ。
腹が立つ。
腹が立つ。
何で、こんなに無意味なことで怒っているのか、自分でも分からなかった。
その時、押し付けられた拍子に頭を強く打ってしまった。
僕は我慢ならず、その人に罵声を浴びせる。
「あなたは仕方のない過ちにすら、怒るのですね」
隣にいた女性が悲しそうな顔をして僕の方を見ていた。
授業に集中できず、頭の中がぼんやりしていた。
黒板の文字は意味を持たず、ペンの走る音しか聞こえない。
手元のノートを開いても、何を書けばいいのか分からない。
時間だけが淡々と過ぎていくのをただ、眺めていた。
そして突然、先生にあてられた。
頭の中が真っ白で、言葉が出てこなかった。
僕が数秒間黙っていると、
「あなたは考えようともしないんですね」
と、先生は悲しそうな顔をして僕を見た。
学校が終わり、外に出る。
見渡すといつの間にか周囲に人は誰もいなかった。
「たすけて」
そんな声が地面の方から聞こえてくる。
見下ろすと無数の餓鬼だった。
餓鬼の一人が僕の足首を掴む。
「離せっ、はなせっ!」
必死に足掻くが餓鬼は足首を離さない。
だんだん地面に吸い込まれていく。
「たすけて」
そう何度も繰り返す。
僕は地上にあるものを何か掴んだがそれも意味をなさなかった。
僕は発狂した。
そして、また―
惡夢 青蛸 @aotako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます