第29話



頭も身体も痛い。


目を覚ました先にはいつものように天井があると思った。ところが瞼を開けてみると、目の前に現れたのは真っ白な胸板で。

「…………」

柔らかいシーツに埋もれる自分を抱き締める存在がいた。


白希は宗一のベッドで、宗一に抱かれながら眠っていた。今が何時か分からないが、随分寝ていた気がする。

目の前の彼も今はかすかな寝息を立てており、目を覚ます気配はない。


……本当に大変なことをしてしまった。


現実……というより我に返る。心機一転、生活を立て直とそうと決めた夜に、彼と一線を越えた。


成り行き上とは言えない。ほとんど自分からけしかけたからだ。

宗一の健やかな寝顔を見れば見るほど、血の気が引いていく。


キスはしない、って自分が決めたのに……彼に呼吸を与えられてから大事な銅線がショートした。考えるよりも先に身体が動いて、気付けば彼の唇を奪っていた。

自分でも分からない。何であんなに我慢できなくなったんだろう。


最低だ……。

明確な関係性を求めてるわけじゃないのに、身体の関係を持つなんて。これじゃ彼を弄んでいるのと変わらない。


でも、好きなのは本当で。離れたくないし、ずっとこうしていたい。もっと彼に触れたい。


あああ、何考えてるんだ……!

自己嫌悪で狂いそうになる。悶々としながら頭を押さえると、宗一はゆっくり瞼を開けた。

「おはよう。身体は大丈夫?」

「宗一さん……」

こんな時まで身体の心配をしてくれることに、有り難さと申し訳なさが込み上げる。

「大丈夫です。それより本当にごめんなさい……!」

パニックに陥ったことはもちろん、彼にキスをしたことも。謝罪だけじゃ済まないかもしれない。そう思って震えたが、宗一は静かに首を横に振った。

「それは私の台詞だ。無理させてごめん」

シーツの中で、互いの脚が触れる。頭の整理に必至だったけど、二人とも裸だ。とんでもない状況は今も続いている。


「でもこれ以上なく幸せな夜だったよ。やっと、君の口から私を求める言葉が聴けたから」


右手の指を絡ませ、手を握られる。横向きで向かい合っていたが、昨夜と同じくまた押し倒されてしまった。

真上に宗一が覆いかぶさってくる。

「こうすると特に、君の強い想いが流れ込んでくる」

繋がった自分達の手を、彼は愛しそうに口づける。

しかし、彼の台詞には違和感を覚えた。甘い例え話ではなく、彼は本当のことのように話し、胸を押さえたからだ。

「それは……どういう意味で」

問いかけている最中だったが、その先は封じられた。


「んっ、ん、ふ……っ!」


また、貪るような口付けが始まる。

まずい。“これ”だ。こうなると理性が弾け飛んで、後先考えず彼と沈みたくなってしまう。

その証拠に突き放すどころか、彼の腕を強く掴んでいた。


「はぁ、はぁ……っ」


息ができなくなると頭がぼうっとする。それが快感に落ちる前段階なのかもしれない。

口端から零れた白希の唾液を、宗一は指で拭いた。


「不思議なことに、目を閉じても、耳を塞いでも君を感じるんだ。こうして触れてる間は、君の感情がよく読み取れる。同じ力を持つ者同士の特徴なのかもね」


今度はもう片方の手も繋ぎ、宗一は長い睫毛を揺らした。


好きという気持ちが最大まで膨れ上がって、何としても手に入れようとする。

「君はこの力を憎んでるだろう。私もそうだった」

手に力が入る。

「だけど唯一良かったことは、君の気持ちを全身で感じられることだ。深いところまで触れ合って……言葉にできないことは、こうして聞き出していく。狡いかもしれないけど」



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