第8話



牛乳とは別に、ブラックを差し出される。ひと口飲んでみたけどとても苦くて、一瞬顔が引き攣ってしまった。

「白希には飲みづらいか。砂糖とミルクを入れるね」

「あ……申し訳ありません」

「謝らないで。丁寧なのは君の良いところだけど、気を遣いすぎだ」

黒い水面にミルクが注がれる。柔らかい色に変わっていくさまを眺めるのは、ちょっと楽しい。


「もう君を厳しく叱る人はいない。……ご両親のことは心配だろうけど、もっと自分を出していいんだよ」


家族のことを思い出した途端、持っていたフォークが熱くなった。痛かったけど、何とか落とさずに済んだ。痛みを堪えたまま、宗一に悟られないようゆっくりテーブルに置く。


「お父様達は、無事……だと思います」

「なにか心当たりが?」

「いえ、全然! 何となくです。ごめんなさい」


両手を振って否定する。でも本当に、彼らは今どこかで、無事に過ごしている気がした。

この世には言葉では説明できないことがある。


私はもちろん、家族も、村すらも─────この世界の常識から逸脱している。


それはやはり、この人も。


長い間焦がれて、感謝して……それでもどこか距離を感じるのは、彼も私と“同じ”力を持ち合わせているからだ。再会してすぐその力を目の当たりにしたから、尚さら意識してしまう。


そしてそれすら、この人には見抜かれているんだろう。


「……ご馳走様でした」

「お、多めに出したのに余裕だったね。これから白希の分は多めに作るね」

「いや、お気遣いなく! すみません、お世話になってる上にたくさん食べて! 何の価値もない人間がこんな……! 自分でも本当、嫌気がさします」

「何か唐突にネガティブスイッチが入るんだね……」


どんよりしたオーラを纏う白希に、宗一は上向き、なにか閃いたように立ち上がった。

「宗一さ……んっ!?」

不思議に思って顔を上げた途端、頬にキスされた。

「な、何……っ」

「白希は触れられることも慣れてないからね。愛されることに慣れる前に、こうやってちょっとずつ慣らしていこうと思って」

スキンシップだよ、と微笑む。

キスはスキンシップの範囲なのか? よく分からなくて困惑してると、両手首を掴まれた。


「ルールをつくろう。毎朝一回、必ず私から君に触れる。そして夜は君から私に触れる……と」

「何で……あっ」

「君が自分を取り戻すためだ」


宗一は目を細めると、白希の首筋を甘噛みした。

細く白い肌は、吸い付かれる度に桃色を帯びる。そのさまを眺めながら、愉悦にも近い表情で宗一は瞼を伏せた。


「自己肯定感を上げるには、他人とのスキンシップがいい。持論というか、経験則だけどね」


椅子が後ろに押され、鈍い音が響く。開いた脚の間には宗一の膝が割り込んでいた。逃げられないよう両側からホールドされる。

「……まだ夢みたいだ。こうして君に触れられるなんて」

「ん……っ」

今度は胸に手が這う。最初は何をしてるのか分からなかったけど、指の動きで二つの突起を探してるのだと気付いた。

触れられる前から、そこは固く尖ってしまっていた。本当は見つけてほしいと言わんばかりに、薄いシャツを持ち上げている。

「あっ!」

呆気なく見つかり、服の上から摘まれる。押したり引っ張ったり、優しい力で揉み解された。


会ったばかりでやることじゃない。ただ不思議と抵抗する気も起きなくて、彼の愛撫を受け入れていた。


この人は多分……酷いことはしない。

何の根拠もないけど、漠然とそう思った。


逆に傷つけることが怖くて、両手を下にだらんと下げる。

ぬれた目元で彼を見上げると、ばっちり目が合った。


「ここまでにしよっか。おつかれさま」


チュ、と目元にキスされる。


「ごめんね。怖かった?」

「い、いえ。怖くはないけど……何されてるのかなぁって思って」

「あはは! そりゃそうだよね」



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