落ちてくる
七乃はふと
落ちてくる
「突然電話してすいません。あなたは怪談を集めて小説を書いているんですよね? そこで聞きたいことがあるんです。ここ最近、私の周りで変な事が立て続けに起きていて――すいません。今会社に向かっているところでして。
変な事のせいで眠れない日々が続いていて、あなたなら何か分かるかと思って電話しました。解決法までは分からないのは分かってます! すいません大声出して。でも本当に困っているんです。話だけでも聞いてくれませんか?
ありがとうございます。始まりは半年前の会社の帰り道のことでした。定時で上がることが出来て、夕食を買って帰っていたところに、落ちてきたんです。糞が。
ええ、鳥が上にいたと思っているんですよね。話した人、みんなそんな顔していましたから。もう見なくても予想つきます。でも違うんです。白いベトベトした糞に塗れた紙が落ちてきたんです。
正方形に切られた紙が、糞を包み込むように道路で広がっていったんです。その紙に書かれていたのは糞の漢字と落ちるの漢字で、その周りを四角を描くように下矢印が取り囲んでいたんです。その時は鳥がいたずら書きの紙を飲み込んだんだろうとしか思いませんでした。それよりも素手で糞を触ってしまった不快感で早く手を洗いたい気持ちでいっぱいだったんです。
しばらく何も起きなかったので、糞のこともすっかり忘れていた一ヶ月前の朝でした。仕事前にゴミを出すために、カラス除けのネットに近づいた時です。
ボトっとゴミを捨てるより早く黒い物が落ちてきたんです。ゴミを捨てる格好のまま固まってしまいました。カラスが、丸々太ったカラスが死んで落ちてきたんです。わずかに開いた嘴から白い物が見えました。死骸に手を伸ばして取り出すと、カラスの体液に塗れた紙には、『鴉落』と書かれていて下矢印に囲まれていました。
糞のことを思い出した私は知り合いに話してみたんですが、相変わらず本気で取り合ってくれなくて、それよりも死骸を触った汚いと指摘されるばかり。
馬鹿にされているようで、恐怖よりも怒りが勝ってしまって、それ以上話題に出すことをやめたんです。私も偶然が重なっただけと思うようになった矢先……。
つい、一週間前のことでした。
その日は、前日に夜更かしして寝坊してしまって、慌てて駅に向かっている時でした。途中、住宅街を通り抜けていくんですが、リフォーム中の一軒家に通りかかった時です。頭に衝撃が走って倒れると同時に、周りのアスファルトで透明でキラキラしたものが砕け散ったんです。
もう分かりますよね。窓枠ごと窓ガラスが私の頭めがけて落ちてきたんです。幸い大きな怪我はなかったのですが、こめかみの辺りが切れて、そこから滴った血が地面に落ちた紙を濡らしていました。下矢印に囲まれた『窓落』と書かれた紙が、血を吸っていたんです。
それから一週間家に篭って解決策をネットで探していたんですが、眉唾ものばかりで、偶然あなたのことを見つけて、連絡したんです。ここまでの話で何かわかることありませんか?
このままだと、眠れないばかりか、仕事も失いそうでほんとは今日も外出るつもり無かったんですけど、上司にこれ以上欠勤続けると、退職と脅されて――えっ、今日傘持ってないのに最悪……何、穴? 嘘、落ちてこ――」
この後、女性から連絡は来ていません。それらしいニュースもなく、事件か事故に巻き込まれたのかも分かりません。
ただ、後日。僕のSNSアカウントに正方形の紙の画像が送られてきました。
折れた歯のようなものと一緒に写ったその紙には、下矢印に囲まれた『人落』という漢字が書かれていました。
落ちてくる 七乃はふと @hahuto
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