第8話 夜

 夜は、本来、均等に降りるものだ。

 昼の裏側として、同じ厚み、同じ重さで。


 だがその夜は、明らかに偏っていた。


 街灯が灯ると同時に、影が増えすぎた。一本の電柱に三つの影が絡まり、私の足元には、私より先に影だけが到着していた。歩くたび、影は遅れ、また追いつき、息切れする生き物のように伸び縮みした。


 時計を見ると、針は二十三時四十分を指している。

 それ以上、進まない。


 夜が詰まっているのだと思った。

 時間が、どこかで詰まり、夜だけが渋滞している。


 コンビニのガラス越しに人を見ると、誰もが少し暗すぎた。顔の中心に夜が沈んでいて、表情が底まで見えない。レジの女性は「温めますか」と尋ねながら、もう一度同じ質問をした。声が、二回分、重なって聞こえた。


 外に出ると、空が低い。

 星は見えないのに、見られている感じだけがあった。


 その瞬間、私は理解した。

 夜が異常なのではない。

 夜のほうが、こちらを正しく見ているのだ。


 昼間、私たちは自分を薄く延ばしすぎる。

 言葉で、予定で、明るさで。

 夜はそれを回収しに来る。


 だから夜は重く、暗く、逃げ場がない。

 異常に感じるのは、昼の私が仮の姿だからだ。


 二十三時四十分のままの時計を見上げ、私は立ち止まる。

 夜はまだ終わらない。

 終わらせる必要がないのだ。


 影が足元で、静かに笑った。

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