ソコルア

パチデス

ソコルア

※文中の単語は、いずれも日本語に置き換えている。固有名詞などは、地球における最も近い発音でカタカナで表記している。

全ての暦および日付は、地球の西暦に置き換えている。



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ソコルア。


それは、甘美なる物質。


宇宙の果てからやってきたソコルアは、またたく間に皆を魅了した。


美しく、硬さと柔らかさを合わせ持ち、溶けてしまいそうな危うさをはらんでいる。

深みのある茶色のその表面は、しっとりとした光沢を持ち、常に艶やかに光をはね返していた。




私は一度だけソコルアを見たことがある。


ソコルアの作られる惑星から来た使節団が、たまたま私の旅行していた惑星都市に来ていた。

使節団の行列が、ガラスケースに入れられた、気の遠くなるような量のソコルアを掲げて歩いていた。



実際、その美しい光沢と、茶色の奥に飽和して醸し出されている知性の光を見て、私はしばし呆然と、否うっとりとしてしまったものだった。


そう、知性の光だ。



ソコルアは、単にそこら辺に転がっているドラッグの副作用を無くしただけのものではない。


これは、人に人たる美しさを与える。


人が人であるため、最も重要なことに気づかせ、背中を押すのだ。


その効果は人によるが、一つとして悪いものなどない。


芸術性を与える。

視界を輝かせる。

知覚を速くする。

努力家にさせる。


いずれも、その人が輝くために必要なものだ。



故に、量のそう多くないソコルアを巡り、果てのない戦いが続けられてきた。


遡れば、西暦2213年頃。膨大な数の戦争の中で、数多ある歴史書に必ず記されている、あのブラチッタ解放戦争。


2963年、乙女座暗黒星雲戦争。


3249年、第三次リオロコス星系戦争。


3537年、アンドロメダ銀河無火薬戦争。


3989年、第一次滅亡予言銀河大戦。


4128年、天の川・アンドロメダ銀河無音戦争。


4529年、ゼペラネア星雲の土民解放戦争。


4738年、交響星群の侵略に対する銀河防衛大戦。




現在…5415年に至るまで、星の数ほどの戦争が行われてきた。


ソコルアは富の象徴だ。


富、権力、そして階級は、常に争いを生む。




「デューン/砂の惑星」という物語を読んだことがあるだろうか。


宇宙の果ての、地球という惑星の本で、なんと西暦にして1965年に出版された本である。


ある重要な資源の埋蔵する、過酷な環境のある星における、権力闘争を描く物語なのだが、この物語には、〝香料メランジ〟と呼ばれる物質が登場する。


メランジは抗老化薬であり、人に人間離れした能力を発現させたりする。


このメランジと、その莫大な利権を巡って起こる争いが、この物語の主軸となっている。


宇宙の描写については勘違いも甚だしいが、この物語は一つの核心を突いている。


無論、メランジとソコルアの類似性だ。


20世紀に、ここまで未来のことを予言した書物が、他にあっただろうか。


…とはいえ、当たり前かもしれない。






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話は変わるが、私は以前ラティオニスカ星系にて従軍していた経験がある。


歩兵連隊である第18連隊に属していて、4年間で伍長まで昇進して退役したが、その間、訓練外で戦闘した経験は両手で数えられるほど。


平和な世だ。


だが、退廃している。


誰もが何かになろうとしている。

何になりたいのかも知らないのに。


今、社会に新しく求められているものなんて存在しない。


だから、何かになりたいのに何になればいいのか分からない。


ソコルアはその欲求を満たしてくれる。


少なくとも、皆そう思っている。


体験したことはないが、噂によれば、ソコルアを使えば視界が晴れ、すべき事とそのために必要な才能が与えられると言うではないか!


それが、幾度の争いを生んだだろうか。




新たな椅子が必要だ。


今の宇宙には、椅子が少なすぎる。


数垓のプレイヤーが、椅子を探してひしめき合っている。


椅子に座って何になるかも知らずに。




なんとも気味の悪い話だ。


集合体恐怖症ならなおさらだろう。



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ソコルア。


これまで、ソコルアを取り巻く現状について話をしてきた。


では、ソコルアとは一体なんだ。


確かに、私は実物を見たことがある。


全てを飲み込んでしまいそうな深い深い茶色と、しなやかで艶やかな知性の光。

ガラスケースの中、そっと、けれど燦然と輝く柔らかな物質。


だが、それは本当にソコルアなのか?


私は、それがソコルアと聞いただけだ。

ソコルアを作っていると惑星の使者から、それがソコルアですとに過ぎない。


私自身に対して言われたわけではないが、そうに過ぎない。


それに、その〝ソコルア〟が本物だったとして、それでも私はその概形だけしか知らない。


その見た目…茶色くて柔らかくて光沢がある…と、その有用性…人の精神にあれこれをもたらす…しか知りはしない。


例えば、使う使うとこれまで言ってきたものの、実際にどう使うのかとか、使ったらなんであれこれがもたらされるのかとか、ソコルアの構造は何かとか、ソコルアは誰が何のために作り、なぜソコルアと名付けられたのか、と言った事柄は一切分からない。


驚いた。

ソコルアとは一体なんなんだ。




そもそも、私に理解できるのかも分からない。



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ソコルア。


宇宙の果てではそう呼ばれているそうだ。


だが、〝それ〟の地球での呼び名は…

















〝それ〟は、茶色く、柔らかく、光沢を持っていて、そして甘い。


〝それ〟は、地球の暦で主に2月に消費される。


〝それ〟は、木ノ実から取られた素材と砂糖を混ぜて作られる。









〝それ〟は、地球では、チョコレート…またはショコラと呼ばれている。

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ソコルア パチデス @Pachi-Dess0911

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