異世界から脱出せよ!!〜人類の滅亡を辿る世界から脱出する為に、先ずはダンジョンでゴミ漁りします〜

杯 雪乃

落ちてきた少年


 どうやら俺は、この異世界から脱出をしなければならないらしい。


 異世界転移したと知ったのがつい15分前。俺の頭は現在混乱している。


 こういう時こそ、何が起きたのかを整理するべきだ。


 俺は、与えられたクッション性もないベッドに座り込み、牢獄かと思うほどに殺風景な場所で頭を抱えながら、何が起きたのかを整理し始める。


 白雲(しらくも)ユナ。


 それが俺の名前だ。


 女の子っぽい名前をしているが、俺はれっきとした男である。


 年齢は15。この春から高校に進学する事となり、中学最後の春休みを満喫していたある日、それは起きた。


 コンビニに行こうと、家を出たその時だったはず。


 俺は気がつけば、このベッドの上に寝かされていた。


 いきなり過ぎるだろって?俺が一番言いたいわ。


 そして誰だか知らないオッサンに色々と話しかけられ、困惑しながらもその質問に答える事となったのである。


 で、俺も質問が許されたので質問をした。


 ここはどこなのか、何が起きたのか。アンタは誰なのかと。


 軽く話されたが、簡単に要約するとこうだ。


 ここは俺から見たら異世界で、次元の裂け目から俺は落ちてきたらしい。そして、この世界は現在進行形で人々が住める土地が少なくなっており、この世界に住む人々の多くは別の惑星への脱出を目指している。


 次元から落ちてきた俺は貴重なサンプルであり、保護することになった。


 簡単に言えばこんな感じである。


 それ以上の事はよく分からない。他にも色々と質問したかったが、そのオッサンは呼ばれたからと言って、どこかへと消えてしまった。


「どうすんだよこれ........」


 様々なコンテンツが蔓延る現代において、異世界転生や異世界転移はメジャーなものとして扱われる。


 かくいう俺も幾つか、アニメを見たり漫画を呼んだ訳だが、俺の知る異世界転移とは随分と違う景色が目の前にはあった。


 異世界転生と言われて思い浮かべるのは、剣と魔法の世界だろう。


 科学では説明できない現象を魔法によって引き起こし、剣で敵と戦うのだ。


 しかし、目の前にあるが、全てを否定する。


 俺が逃げ出さないように監視していると思われる兵士の持っている武器。それは、誰がどう見ても銃であった。


 俺はミリオタではないので詳しい種類までは分からないが、ピストル、ハンドガン、拳銃と呼ばれるよくあるもの。


 形がそれに酷似しており、明らかに俺の思い描く異世界とは違う。


 剣と魔法?そんなの古い古い。時代は銃っしょ!!


「........大丈夫か?」

「え?あ、まぁ、はい」


 監視役の人を眺めすぎたからだろうか?彼が俺に向かって声をかけてくる。


 防弾ベストとヘルメットを被ったその姿は、軍人と呼ぶ方が正しいのかもしれない。


 言葉を間違えれば、引き金1つで俺の命が終わる可能性もある。


 大人しくするしかない........のだが、どうしても俺は聞きたいことがあった。


「あの、すいません」

「なんだ?」

「トイレって何処ですかね?」


 緊張と恐怖で、ちょっと尿意が........そんな顔しないで軍人さん。



 ──────



 無事に人間の尊厳を保った俺は、また同じ部屋に閉じ込められるのかと思ったのだが、どうやらこの場所のリーダーと顔を合わせることになった。


 明らかに現代風に作られたコンクリートの廊下を歩き、辿り着いたのは小さな部屋。


 俺は今からどうなるのか、どうすればいいのか。不安から足の震えが止まらないが、力無き今どうすることも出来ない。


 よくあるチートを貰って無双なんて流れはないのだ。思っていた異世界転移とはあまりにも違いすぎる。


「よく来てくれた。そこに腰をかけてくれ」


 リーダーと言われていた彼は、かなりのおっさんであった。


 無精髭を生やし、眼光は鋭くメガネをかけている。なんと言うか、人類補完計画とかやってそうな見た目である。


 その隣にいるのは、目が奪われるほどに美しい女性。


 体つきは女性らしさが強調されており、顔のパーツは完璧に近い。少しつり目で、キツイ性格を彷彿とさせるが、それよりも気になる点がある。


 人間とは明らかに違う、先の尖った長い耳。


 ファンタジー世界では、彼女はこう呼ばれるだろう。


 ダークエルフと。


「どうした?」

「あ、すいません」


 見惚れて立ち尽くしてしまった。俺は慌てて席に座る。


「君の話についてはある程度聞いているが、やはり自分の目で見てみないと判断ができなくてね。事件の裂け目が確認され、そこの真下に君がいた。それは間違いないかね?」

「すいません。記憶にないです」


 気絶してたんで、マジで記憶にない。


 こんな状況で嘘をつくような度胸もあるはずがないので、俺は素直に答えた。


「........あ、そっか。運ばれてきてた時に気絶してたもんな。ごめんごめん。じゃ、君のいた世界について話してもらえるかな?」

「はい」


 俺は知っている限りのことを話した。地球について、日本について、その文化や文明について、各国の話等についても全てを話した。


 もっと知識があれば、詳しく話せただろう。


 疑問に思われた所には質問が飛んできたが、知らないものは素直に“知らない”と答える。


「ふむ。地球か。聞いたことがない場所だな。移住先にそんな話はあったか?」

「観測されている限りはありません」


 ダークエルフと思わしき女性が答える。


 話を聞く限り、彼らは別の惑星を観測する手段を持つようだ。


「では、嘘をついている可能性は?」

「ここまで壮大な嘘を並べられるなら、彼は小説家にでもなるべきかと。虚言癖もここまで来れば一種の才能になりますよ」

「そこまで言わなくてもいいんじゃないかな........」


 酷い言われようだ。しかし、俺の話が疑われている様子はない。


 これは、少なくとも俺が別の世界からやってきて右も左も分からない産まれたての子羊である事は、信用して貰えたかな?


「彼の処遇はどうするべきだと思う?」

「最も安全なのは殺す事ですが、次元から転げ落ちた来訪者という点では価値があります。移住先での未知の生命体へのコミュニケーションや検査などの訓練にはなるでしょうし、検査次第では有効な活用ができるでしょう」

「なるほど。そもそも、別世界からやってきたのに言語が通じるのが少し違和感を持つしな」


 確かに。


 普通に言葉が通じている。聞こえてくる言語は日本語。俺が話しているのも日本語。


 だが、彼らの口元を見ると別の言語を話しているように見える。


 これが唯一与えられたチートと言うならば、その神を殴ってやりたい気分だが。


「よし、とりあえず君の生命と基本的な尊厳を保証しよう。文化や習慣は違うだろうが、そこは慣れてくれ」

「分かりました」


 それはつまり、実験体モルモットとして受け入れると言っているのでは?


 俺はそう思いながらも、選択肢がないので首を縦に振るしかない。


「俺はこの隠れ家ハイドアウトのリーダー、グランドだ。こっちは情報統括兼秘書のセリアだ」

「セリアです。よろしくお願いします」


 ぺこりと、ダークエルフと思われるセリアさんが頭を下げる。


 睨まれているような印象を受けるし、言葉もちょっとキツめだが、ここら辺は礼儀正しいんだな。


「ユナです........よろしくお願いします」

「よろしく。早速で悪いが検査に向かおう。安心してくれ。腹を切り裂いて中を見るようなことはしないからな」

「あ、あはは」


 場を和ませようという冗談なのだろうが、今の俺からしたら笑えないんだよ。


 こうして俺の、異世界生活が始まった。


 まだ分かっている情報が、異世界から脱出しなければならないって事だけなんだけど、もう少し話が聞けるタイミングがあるかな?


 とにかく今やるべき事は、この世界を知ることだな。


 ........ところで、本当に解剖はしないよね?

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