奴隷勇者の人生譚【第38期 ダンジョン攻略記録】

霜月

第1話 奴隷勇者の誕生

 この世界には勇者が存在する。彼らは等しく人類を救う為に、命を賭して魔の領域ダンジョンへと踏み込んでいく。


 ※※※

 

 すり鉢状の観客席の中央。砂地で出来た開けた空間に、湧き立つ野蛮な歓声が豪雨のように降り注いでいた。


「何してんだ! 早く殺せ!」「ぶっ殺せ!」「血を見せろ!」「殺せ殺せ!」「つまんねえことしてんじゃねえよ!」


 血生臭い歓声の先、そこには二人の両の足を鎖で繋がれた男が対峙していた。

 片や両腕を失い、涙ながらに命を懇願し、片や無傷な姿で冷酷な目をもって、血濡れた剣を対面の男に向けている。そんな両者の顔には炎に似た刺青が施されていた。


「頼む! 死にたくないんだ! オレはこんなところで終わりたくない! あと少しで市民権を得られるんだよ! 自由になれるんだ! だから頼む! 殺さないでくれ!」


 失った手で砂の地面に手を付き、土下座をする男の背は、対面の男よりもずっと大きいはずなのだが、今や見る影もなく縮こまっている。

 そんな男に、剣を向ける男の態度は変わらない。眉一つ動きはしない。まるで蝋人形のように表情は固まっている。


「手を失えば足がある。足を失えば口がある。諦めた時点で命は終わりですよ」


 淡々とした口調で突き返された言葉に、頭を上げた腕のない男の顔が絶望へと染まっていく。


「嫌だ……。頼むよ……。やめてくれ……」


 震える声音はしかし、目の前の男には聞き入れられない。

 まだ少年と呼ばれるべき容姿の男は、両手で剣を握り、振り上げた。

 なぜなら――


「それと、ここでは命乞いなんて意味をなしませんよ」


 顔色一つ変えず、ただ日常をこなすが如き澄ました表情で少年は敗北者の頭を叩き割った。


「決着! 圧倒的! 圧倒的な決着だ! 無様な姿を晒したガルガッタの脳天をリックが叩き割ったぁ!」


 反響石を用いた司会の声が響いた。

 同時に観客から歓喜と怒号が飛び交い始める。


「よくやった!」「ふざけんなよ! 死にやがって!」「賭けに勝ったぞ!」「まったく役に立たないゴミだね!」「金返せ!」


 およそ人に掛けるべきではない言葉の数々。

 だがそれもそうだった。何故なら観客にとって、リックと呼ばれた少年然り、命尽きたガルガッタは人間であると認識されていないのだから。

 

 彼らは【奴隷】。罪を犯し、人である権利を剥奪されし者。

 そしてここは闘技場。命と命がぶつかり合い、散っていく見世物小屋。彼らは剣闘士として戦っていた。


 観客はその血が地面に啜られるさまを楽しみに訪れている。ある者は道楽として。またある者は賭け事として。更にある者は己の権力を示す為に。

 かつて命あった肉塊に興味を示すことはなく、リックは静かに踵を返した。剣を捨て、足枷の鎖を揺らしながら、自身が入場してきた鉄柵へと向かう。

 その全身に刻まれたおびただしい数の古傷を日に照らしながら。


「これでリックは999勝目! 1000勝目まで目前だ! 次の決闘も期待しているぞ!」


 司会の高ぶる声援と観客の褒め称える声を背に、鉄柵が重々しい音と共に砂を巻き込みながら上がっていく。

 熱い砂地から冷たい石畳へと素足の感覚を変えて歩いていると、奥から金髪の縦ロールをなびかせた少女がドレスの裾を持ち上げながら走ってきた。


「リック! お疲れ様! 今日もすごかったわ!」


 キラキラと目を輝かせ、自分事のように喜ぶ少女の名はアルローエル。リックが所有されているエルハリオ家の一人娘だ。


「ありがとうございます。アルローエルお嬢様」


 リックは戦闘後だというのに呼吸の一つも乱さずに頭を下げた。

 そんな頭に柔らかな手が乗せられる。


「頑張ってくれたんだもの。褒めるのは当たり前でしょ」


 優しく頭を撫でられるが、リックの表情は無のままだ。

 当たり前だ。彼女はリックを人間としては扱っていない。ペットとしてしか扱っていないのだから。

 そもそもの感情が消え失せてしまっているという話は置いておいて、この行為も従順なペットが優秀な成績を残したとしたことを褒めているだけなのだ。


「今のリックなら【紋付き】にも負けないと思うの! リックもそう思うでしょ!?」

 

 撫でる手を止めたアルローエルがテンション高く言った。

 【紋付き】とは奇跡を与えられし者のこと。理を超える力を持つ者を指す呼び名だ。

 

「はい。そうですね」


 否定すれば罰が下る。奴隷に口答えは許されない。そんな訳ないだろうと思いながらも、面倒事を避けたいリックは思ってもいない肯定を口にした。


「だから次は紋付きでも苦戦する相手を用意したの! アナタが勝つと思ってたから、もう連れてきてあるわ! 今から戦いなさい!」


 純粋無垢な目で、とんでもないことを言い放った。

 剣闘士の寿命は短い。それは命の奪い合い故でもあるが、何よりも怪我をした場合にろくな処置をしてもらえないから。

 決闘の頻度は主に1週間に1回〜3回。小さな傷であっても治癒には数日かかるというのだから、大きなものになれば、そんな短期間では治るはずがない。

 

 それこそ【紋付き】のような夢物語の力でもなければ。

 

 そもそも決闘は精神と肉体の疲労の蓄積が桁違い。怪我などなくとも、連戦など正気の沙汰ではない。

 だが何を思おうと奴隷に拒否する権利はない。肯定以外の道を選べば、それは死を選ぶも同義だ。

 なぜ彼女がこんなことをするのか。それは約束を違える為。希望を打ち砕く為だ。

 奴隷達に戦う理由をつける為、1000勝すれば市民権を得られるという餌を剣闘士は与えられている。だがそんな約束を守る気のない人間様は、こうして無茶を強いて、あと一歩のところまで辿り着いた奴隷を始末する。

 そんなアルローエルの魂胆に気付きながらも、リックは興味を示すことはなかった。

 ただ一言「分かりました」と返すのみだ。


「次勝てば1000勝目! 市民権を得られるわ! 大丈夫! リックなら勝てるわ!」


 心にもないことをいけしゃあしゃあと口にするアルローエルに、しかしリックは怒りを抱くことすらなく、それどころか感謝を示して頭を下げた。


「ありがとうございます。全身全霊戦ってまいります」

「行ってきなさい!」


 ビシッと闘技場を指すアルローエルに従い、リックは再び踵を返した。

 歩む足に怯えはない。疲労を感じさせぬ堂々たる足取りで、リックは鉄柵の下をくぐっていく。

 その胸に高揚という名の炎を滾らせながら。


 ※※※


「なな、なんと! 特大ニュースだ! リックの野郎、このまま1000勝目に挑むつもりらしいぞ!」


 突然舞い込んできて衝撃のニュースに、司会だけでなく、観客にもどよめきが起こった。

 帰ろうとしていた人々の歩みが止まる。

 混乱渦巻く中、舞い戻ったリックは地面に転がる剣を取ると、服と呼ぶにはあまりにも粗末な1枚布で血を拭いた。


「アルローエル様には感謝しないとな」


 思わず上がった口角に気付いたリックは、ゆっくりと深呼吸をして元に戻す。

 しかし高鳴る胸は鎮まらない。

 早く戦いたいと脈打っていた。


 ――ああ、どんな相手だろうか。


 割れた頭を垂れてうずくまったまま放置されているガルガッタなど既に眼中にはなく、リックは対面の柵を凝視していた。

 先の相手はつまらなかった。攻撃力は破格だったが、死にたくないという想いが滲み出ていて常に逃げ腰だった。

 そんな相手では満足出来ない。もっとひりつく、命と命を燃焼させる戦いがしたい。

 期待を胸に待ち望んでいると、対面の柵が上がっていく。

 紋付きに匹敵するレベルの相手だ。どんな奴が姿を現すのかと思っていると、柵をくぐってきたのは――


「ドラゴン……」

「なんということだぁ! ドラゴンが出てきたぞ!」


 全身を覆う赤熱の鱗。人間など一飲みの巨体とその先端についたトカゲに似ているが全く異なる頭部。その巨体に引けを取らない雄大な翼。肢体に生えた人の腕ほどもある爪を地面に食い込ませ、見るもの全てを畏怖させる眼力を持って――ドラゴンが現れた。


「た、ただいま入ってきました情報です! このドラゴンはエルハリオ家が魔の領域ダンジョンにて発見された卵を孵化させ、赤子の頃から育て上げてきたのだそうです! そんなドラゴンがエルハリオ家の忠実なる守護者として、リックの前に立ち塞がった!」


 ドラゴンは知性が高い。幼い頃から教え込めば、ある程度の人語は理解する。そして縦社会の生物故に親には絶対服従。

 

「戦いに勝ち、エルハリオ家に忠義を誓うのはどっちだああああ!」


 リックを殺すように言われば、息の根が止まるまで止まることはない。


「まさか、アナタと戦うことになるとは」


 リックの呟きにドラゴンは唸り声で返した。

 

 奴隷の腹から産まれた子供の生き様は運命付けられている。


 エルハリオ家の下で奴隷として生を受けて早15年。リックは目の前に対峙するこのドラゴンの世話係を任されていたことがあった。

 何度鱗に皮膚を焼かれたか。何度喉元を食い千切られそうになったか。

 その度に考えていた。衝動を抑えて、触れた感触と死に近付いた感覚を頼りに脳内シュミレーションを繰り返していた。


 ――ああ、やっと願いが叶った。


 もうそんなことをしなくても直に戦える。

 これほど喜ばしいことはない。

 知らず、歓喜に目が大きく開かれる。満面の笑みが浮かび上がる。

 我慢ならない。リックは足で砂を掴み、地面を蹴った。


「先に動いたのはリックだ! ドラゴン退治は初めてだろう!? 何か策はあるのか!?」

 ――策なんてある訳ないだろ!


 剣一本で何が出来るというのか。野生の暴力の前では剣一本持った人間など圧倒的無力。

 これまでのシュミレーションだって自身の死しか想像出来ていない。

 だが、だからといって諦める理由にはならない。

 こんな機会は二度と訪れない。端から見ればただの虐殺の現場だ。しかしそうはさせないし、なるつもりもない。

 全力を持ってこの戦いを楽しむ!


「真正面! リック、真正面から突っ込んだ!」


 無謀な特攻。ドラゴンは蟻でも潰すかのように右前脚を叩きつけた。

 本気を出さずとも、ドラゴンの一撃は即死級の威力を持つ。

 呆気ない幕切れ――かに思われたが。


「リック避けた! そしてそのまま斬り込んだぁ!」


 すんでのところで回避したリックはそのままドラゴンの横っ腹を叩き斬った。

 しかし――


 ――硬いな。剣じゃ通らないか


 軽快な音と共に弾かれる。

 ならばと一度距離を取るが、そこに鞭のようにしなる尻尾が打ち払われる。

 このまま逃げても大木のように太い尻尾に打たれてしまう。

 そうなると逃げるは上。リックは跳躍して尻尾を回避した。

 すると地面が抉れて、視界が塞がるほどの砂埃が舞い上がった。

 砂埃の規模で分かる威力。当たれば胴体は泣き別れだろう。


「グルルルル……」


 追撃は来ない。

 ドラゴンは頭だけをリックに向けて、砂埃の中から殺気に満ちた琥珀色の目を向けていた。

 思わず後退りそうになる眼圧に、後方にて構えたリックは体を震わせる。だかしかし、それは恐怖からではない。強敵と対峙出来る状況から来る武者震いだった。


 ――さてと……どうするか。このままだとジリ貧で殺られるな。


 剣は通らず、打つ手なしかと思われるこの状況。


 ――いや、いけるな。


 それでも道がない訳ではなかった。針の穴を通すが如き至難の業だが、成功すれば優位に立てる。

 覚悟なんて初めから決まっている。

 リックは呼吸を整え、柄を強く握ると、足を引いた。

 次の瞬間――盛り上がった砂が弾けた。


「どうするつもりだ!? 無謀にもリックが突っ込んだ! ん? 何だ、正面に回り込んだぞ!?」


 まだ後方から攻める方が生き残れる確率は高いにも関わらず、その可能性すら捨てる暴挙にどよめきが起こる。

 だがリックが視界に収めるドラゴンだけは、雄々しき佇まいのまま、リックを見ていた。羽虫がどれだけ策を弄そうとも、圧倒的強者の暴力でねじ伏せると言いたげに。

 正面に回り込んだリックは速度を維持したまま、急旋回して突っ込んだ。

 即死の爪による叩きつけを避けて、大きく跳躍する。

 灼熱を宿すドラゴンの吐息が肌を撫でる。

 口吻でもしようかという距離だ。

 気狂いになったただの自殺行為。大きく開かれた研磨した刃のような歯がズラリと並ぶ口へと吸い込まれていく。

 終わった。誰もがそう思った――ただ1人を除いて!


「鱗は硬くても目玉は柔けえよなぁ!」


 大きく身を翻して噛みつきを避けると、そのままドラゴンの左の目玉に剣を突き刺した。


「グギャアアア!」

「目玉からなら脳みそ直行出来んだろ!」


 剣闘士として人間以外との戦闘も多々あった。虎や象ならともかく、中には今回のような剣の通じない強敵もいた。そんな奴らでも唯一通用したのが目。そこから繋がる脳への攻撃。

 ドラゴンも生物だ。頭蓋骨の構造なんて違いはあれど大差はない。


 ――押し込む!


 鱗でさえ熱を持っているんだ。内部の温度は計り知れない。剣が溶ける前に決着をつける。

 頭部に馬乗りになり、より深く剣を刺し込む。

 だが――


 ――しまっ……。


 そんなことを許すはずもないドラゴンの手が、リックははたき落とした。

 避けることも、防御出来ず、ゴムボールのように跳ねて砂に埋もれるリック。後少し、後少し力が足りなかった。


「け……決着か!? とんでもない荒業を見せてくれたリックだったが、ドラゴンの一撃の前に地に伏してしまったぁ!」

「もう終わりかよ」「もっとドラゴンの活躍見せろよ」「案外面白いやつだったんだけどな」「帰ろーぜ」


 呆れた観客の声が投げ込まれる。

 

 ――好き勝手言いやがって……。


 力なく開いていた手が砂を抉り掴む。


 ――まだ終わってねえよ。


 全身が痛む。左腕は完全に機能を失った。折れた肋骨が内臓に刺さっている。肺にも穴が空いてゴロゴロと音を出している。

 だがそれでも――


 ――オレはまだ生きている。戦いに終止符はついてねぇ。


 赤く濁った視界で敵を捉える。膝をつき、体を上げる。

 走馬灯のように思い出される先の戦闘での会話。

「手を失えば足がある。足を失えば口がある。諦めた時点で命は終わり」

 自身の言葉に嘘はない。それを信念として戦ってきた。その芯が折れることなど……ありはしない。


「さあ来いよ! オレの命はまだ終わってねえぞ!」


 血反吐を吐いた叫びはドラゴンをも畏怖させた。

 生物として生き残る為の叫びではなく、戦いに生涯をかける狂気の叫び。見たことのない存在にドラゴンは、彼の者を完全に消さねばならぬと決意する。そうでなければこちらの命が危ぶまれる。本能が、高い知性が、警鐘をうるさいほどに鳴らしていた。

 ギョロリと、残った右目がリックを捉え、燃え盛る業火を口内から溢れさせ始める。


 その炎は生物の理を超越した生物にのみ許される力――【魔法】。

 

 あらゆるを消し炭にするドラゴンの炎が煌々と光を強まらせ、荒々しさを増していく。

 防ぐ手段もない。逃げ道もない。

 残った信念一つをその身に、リックは悲鳴を上げる体に鞭を打ち、ドラゴン目掛けて真正面から突っ込んだ。


「ブレスなんて聞いてないぞ! ぜ、全員逃げるんだー!」


 客席をも熱で覆うブレスが放たれた。

 地面を溶かし、蒸発させるほどの高温。人の身などひとたまりもない灼熱。

 そんな成す術のない力を前に、リックは無垢な子供の笑みを浮かべていた。


「アアアアアアアアアアア!」

 

 全力と全力のぶつかり合いの果てに死ねる幸福。

 後悔はない。奴隷という人ですらない最底辺に生まれ、命の奪い合いを強制されたこの人生。嫌なことがない訳ではなかった。しかし己の人生を呪うことはしなかった。

 なぜなら剣闘士という天職へと巡り合わせてくれたのだから。

 だが出来ることなら――


 ――勝ちたかったなぁ……。


 焼かれゆく中、崩れ落ちていく手を伸ばした。

 届ききらなかった想いを胸に、最後に歩みを進めて……。


※※※


 最初に違和感に気付いたのはドラゴンだった。

 全力を持って潰すと決めて放った闘技場を覆い尽くす炎が吹き荒れる中、己が業火の中を歩いてくる存在に。

 ありえない! 矮小な人間が我がブレスを前に進んでくるなどと!

 困惑はしかし、現実をより濃く映し出す。

 業火から覗く狂気の笑み。炭化した、肉塊ですらなくなったはずの物体が確実に距離を詰めてきている。


「あはははははははははははは!」


 耳に流れ込んでくる気狂いの声。

 身の毛もよだつ恐怖がドラゴンを襲った。

 目の前にいるのは人でなくなった何か。人の形をした化物だと。確証のない予想だが、そうであると本能が断定してしまった。

 そんな化物が業火の中を走り始めると、思わずドラゴンは翼を広げて空へと逃げた。

 戦ってはならない。野生の勘の判断だ。


 だが遅かった――


「捕まえたあ!」


 炭化しようとも動いているリックがその足に掴まった。


「逃がす訳ねえだろ!」


 明らかな異常。奇跡が起きて業火の中を歩けたとしても、人間が炭となってまで動けるものなのか。


 否――動けはしない。


 ならばなぜ。その疑問の答えはすぐにドラゴンの目に映し出された。

 炭化した肉の下、赤く脈打つ肉が覗いていたのだ。

 再生している!?

 その事実にドラゴンは理解が追いつかなかった。だが追いつかずとも時間は流れる。

 黒い鎧の中に新鮮な血肉を躍動させ、リックはその背をよじ登っていく。

 いくら暴れようとも振り落とせない。

 リックは死に物狂いでしがみついていた。

 そうしてドラゴンの頭上まで来ると、瞼のない目がドラゴンの失った目を覗き込む。


「あぁ……やっぱ溶けてなくなっちまったか。けどまぁ、いいや!」


 やめろ! 手を放せ!

 気が動転したドラゴンには手で払うという選択肢は消えていた。

 威厳もなく、ただ恐怖に突き動かされて、四方八方に飛び回っているだけだ。


「じゃあなドラゴン! オレの勝ちだ!」


 脆弱な人間。地を這う蟻に等しい存在に負ける。それも自身が見定めた最も低い階級に。

 耳を裂く断末魔を上げるドラゴンの脳をリックの腕が貫いた。

 

 その手には【勇者紋】が刻まれていた。

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