おいてかないで
みそ
第1話 ついてくんなよ
信号待ちで立ち止まったときに、ひたっ、と足音が聞こえた。
ヒールを履いている私の足音ではない。見回しても周囲に人はいない。信号待ちしている車すらいない。
それなのに後ろから、ひたっ、と裸足で地面を踏んだような足音がはっきりと聞こえた。
いやいや、そんなわけない。気のせい気のせい。
バッグからブルートゥースのイヤホンを取り出して耳につけ、スマホで音楽を流す。気を紛らわすには最適の、アップテンポのJ-POP。
信号が変わって歩き出す。J-POPにかき消されて、自分の足音もよく聞こえない。これなら変な音が聞こえるわけがない。
街灯の少ない薄暗い道を足早に進む。
そういえば最近、この近くで変質者が出たんだっけ。
嫌なことを思い出してしまった。
不安から逃れるように、片手でバッグの紐をギュッと掴み、もう片方の手にはすぐに通報できるようにしたスマホを握りながら、更に足を速める。
ちょうど街灯の下にさしかかかったとき、チカチカと明滅して、灯りが消えた。思わず立ち止まってしまうと、また聞こえた。
ひたっ。
イヤホンをしているのに、どうして。そんなわけない、そんなわけないじゃない。
ひたっ、ひたっ、ひたっ。
これは気のせいなんかじゃない。裸足の足音が、迫ってきてる。
「ああああああーっ!」
絶叫を上げて、私はなりふり構わず走った。
「なんなんだよ!ついてくんなよっ!」
サビにさしかかったJ-POPがうるさくて、イヤホンをかなぐり捨て、とにかく走って走って、走りまくった。踵が折れたヒールも脱ぎ捨てて、死にものぐるいで走った。
マンションの前にたどり着く頃には息も絶え絶えだった。足が痛くて痛くてたまらなくて、思わず立ち止まってしまう。
ひっと身構えたけど、ひたっという足音はもう聞こえなかった。
よかった、助かったんだ。もうほんとに、勘弁してよ、こんなわけわかんない現象。
乾いた笑い声を上げながら、エレベーターに乗り込んでボタンを押す。
ホッとすると、この現象を今すぐ誰かに伝えたくなって、お守りのように握りしめていたスマホをつけた。
アプリを開いて、友だちにメッセージを送ろうとすると、ポッとメッセージが届いた。
おいてかないで
真後ろから、ひたっ、と足音がした。
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