第20話 セイカの決意

見合いの相手は、カンジュ国でも指折りの名門に生まれた貴族の令嬢だった。

王家の遠縁にあたる家柄であり、政治的にも無視できない存在であるという。

以前からセイカの名と容姿に想いを寄せていた-------そんな話も耳に入っていた。


「ユイ、いるのか?」


部屋に入ると、ユイは背を向けて座っていた。

怒ったり、拗ねたりしたとき、彼はよくこうして黙り込む。


「急に広間にも庭にもいなくなるから、探したじゃないか」


返事はない。


「……ユイ?」


セイカは静かに近づく。


「見合いのことを気にしているのか?

心配するな。当日、きっぱり断るに決まっているだろ」


その言葉に、ユイの肩が小さく震えた。


「こっちを向け。俺を見ろ」


振り向いたユイの瞳から、涙がこぼれていた。

声を殺し、ただ静かに泣いている。


セイカは迷わず腕を伸ばし、強く抱きしめる。


「何も心配するな。

一度会うのは、王の顔を立てるためだ。

会いもせず断れば、あの方はきっと機嫌を損ねる」


「……でも」


ユイは小さく呟いた。


「すごく……すごく綺麗な女だって聞いた」


セイカは一瞬きょとんとし、それから堪えきれないように笑った。


「何を言っている。

この世に、お前より美しい男も女も存在しない。

何度言えば分かるんだ」


セイカはユイの頬に触れ、真っ直ぐに言葉を重ねる。


「仮に、どれほど美しい人間がいようとも、

俺が愛しているのはお前だけだ。

血も、魂も、心も‥すべてで愛している。

お前以外に、女も男も、何一ついらない。

お前さえ、そばにいてくれればいい」


長い黒い睫毛が、涙に濡れて震えた。


「ほら……来い」


セイカは優しく、包み込むようにユイを抱いた。

言葉よりも深く、どれほど大切に想っているかを伝えるように。


想いを確かめ合ったあとも、ユイはセイカにしがみつき、離れようとしなかった。


その温もりの中で、セイカはふと幼い頃を思い出す。


(……そういえば、昔もこうして俺の手を、ぎゅっと握って離さなかったな)


「ユイ」


静かに呼びかける。


「見合いの日は、お前も同席しろ」


「……え。いいの……?」


「当たり前だ」


ユイはセイカの胸元に頭を預ける。

そこから伝わる、確かな心の鼓動。


その音を子守歌のように聞きながら、

ユイは安心したように、静かに眠りについた。


セイカはその頭を抱き、揺るがぬ決意を胸に刻んでいた。

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