第15話 祝杯の夜

祝杯の宴は大いに盛り上がった。戦場を制した夜はいつもこうして騒がしい。

セイカは15歳頃から屈強な男たちと酒を酌み交わし始め、酒豪となっていた。だが、どれほど呑んでも酔わず、記憶を失ったり突拍子もない行動をすることはない。

しかし、この夜は少し違った。


「ユイ、俺は今日は別の部屋で寝る。俺が戻ってこなくても案ずるなよ」


「なんで、兄様、どこで寝るの?」


「いや‥ちょっと側近たちと重要な話があるんだ。遅くなるから、お前は先に部屋に戻れ。今晩は広々と布団を使え、わかったな‥」


セイカはユイの頭をクシャクシャと撫でた。ユイは不安そうに思った。


(兄様、なんか変だ……)


その晩、ユイは一人で床についた。隣にはいつもいるはずの兄の姿がない。寂しさに駆られ、セイカの布団に寝転がる。ほのかに漂う兄の匂いに、ユイは安心を覚えようと、畳んであるセイカの寝巻きを身に纏った。


(兄様に包まれているみたい……でも寂しいよ。今までこんなことあっただろうか?兄様が城に居る時に離れて寝たことなんてないのに……仕方ない、大事な話だって言ってたし……俺も従うべきだ)


朝、いつもならばセイカやばあやに起こされるユイだが、この朝は違った。

身支度を整えると、城内で兄を探す。


「兄様はどこだ?」


廊下で出会った侍女に尋ねると、彼女はおそるおそる答えた。


「ユイ様、おはようございます。殿は大広間の奥の部屋で眠っておられます」


侍女が言い終える前にユイは大広間へと向かおうとした


「あ! 今はまだ行かない方が……」


侍女が不安気に言った


「もうよい!」


ユイは苛立ち珍しくきつく言い放った


ユイは嫌な予感を胸に、大広間を足早に進み、奥の部屋の扉を勢いよく開けた。


(!)


そこにあった光景は、寝ている兄の両脇に二人の女が抱かれ、ほとんど裸の姿だった。部屋には男の体液の匂いが漂っている。

ユイは初めて戦場以外で、誰かに殺意を抱いた。しかも女に対して。


(くっ!)


唇を噛み、血が滲むのを感じながら、ユイはわざと大きな足音を立て布団をめくった。


「おい、女! 娼婦だろ!早くここから出ていけ!」


女性たちは恐怖で飛び起きた、


「お殿様は昨晩は大変乱れておいでで‥」


言い訳を口にする女たちにユイは怒鳴った


「‥誰がそんな事を口にしろと言った!早く失せろ!」


ユイのあまりの怒りに女たちは裸のまま部屋を出ていった。


ユイは冷たい声で、城付きの兵士に女たちに金貨を渡すよう命じた。


セイカは大声にも動じず、ぐうぐう寝ている。

「兄様! 起きてください! 兄様!」

ユイは必死に兄を揺さぶった。


ようやく上半身を起こしたセイカは、呑気な声で言った。

「なにをそんなに怒っている? 俺は独り身だぞ、女と遊ぶくらい当然だろ」


ユイの目は艶やかに潤み、唇からは血が滲む。

セイカはその目を見て、はっと表情を変えた。


「わかった、俺が悪かった。昨夜は呑みすぎて羽目を外してしまった。心配かけてすまなかった」


兄は立ち上がり、ユイの頬を軽く引っ張る。


「いつまでもそんな顔をするな、泣くな、カンレイ一の美貌が泣くぞ。よし、湯に入ってくる」


セイカの床に残された布団と枕は、ユイの命令で燃やされる。

ユイの鼻にはまだ兄の体液の匂いが残っていた‥嫉妬で気が狂いそうになる自分を抑えるのに精一杯だった‥

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