短編

@snmns

お題「ベッド」

 ひるなかの海は荒れていた。

 暖かい海に豪雨が降り注いでいる。濃いグレーの空に稲妻が閃いた。

 あ、落ちた。

 次の瞬間轟音が轟く。ひかりが迸り、叩きつけ、炸裂する。


 わたしはそれを、コテージのベッドで布団にくるまりながら見ていた。全開にした掃き出し窓から潮と湿気で充満した空気が流れてきて、顔にへばりつく気がする。

 このコテージは海のごく近くに位置しており、どの部屋からも海が見えた。晴れていれば最高だっただろう。部屋いっぱいにずっしりとした雨の匂いが満ちている。

 寝転がるシーツはよく糊がきいており、知らない匂いがしてよそよそしい。くるまっている掛け布団は薄く軽く、ベッドサイドのキャビネットの上には"Welcome"と印刷された小さなカード。木の床はぴっちりとすき間なく敷きつめられていて、ワックスでよく手入れされていた。壁や天井は白く、抜け目なく客人をもてなしている。私はふかふかの枕に乗り上げてぼんやり海を眺める。


 先ほどから、隣のリビングで両親が口論をしていた。いつものことだ。乗るつもりだった遊覧船が荒天で欠航し、浜辺を散歩することすらできなかった。わたしは海で遊んではしゃぐ歳でもないのだが、スケジュールが狂ったことを起点としていくつかのくだらない小競り合いを重ねた末に、うちの父親と母親は言い争っているらしかった。

 なんのためにここに来たのだろう。喧嘩するために来たわけじゃないだろうに、飽きない人達だ。別のことにエネルギーを使えばいいのに。

 海水面に雨が叩きつけられる様子というのは面白かった。笑えるくらいの勢いで降る雨は、圧倒的な質量の水の塊にぶつかり水しぶきをあげて煙っている。見ているだけなのに顔に飛沫がかかりそうだ。海は雨を取り込み、より一層猛っている。どちらもお互いのことなんて気にしていないみたいなのに、ごうごうと轟音を立ててふたつの水は押し寄せ、荒れ狂い、つまらない人間の予定を狂わせ、喧嘩を飲み込み、混ざり合い、うねり、しぶきをあげる。

 水音が本当にうるさくて、横になっている間にリビングはどんどん遠ざかる。私を包む心地よい布の質感と、絶えず流る轟音しか、もうこの寝室には残っていない。

 雨が降っていて良かった。全部をかき消してくれる。もっと降ってもいい。この小さな寝室が水に飲まれるくらいに。


 でも、やっぱり船に乗って沖に出てみたかったな。



===


SNSの企画に参加させていただいて書いたものです。その節はありがとうございました!

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